暗黒系3
死体を見つけた後、なんの躊躇いもなく彼女は写真を撮り出した。俺も負けじとカメラを取り出し邪魔にならない様に死体をフレームに収めていく。
初めて撮る実物に興奮を覚えつつシャッターを切っていく。このカメラに映されるのは実際に殺された人間の遺体で、未だ犯人以外の手が付けられていない本物だ。
「手帳を持ってて頂戴」
彼女は遺体の前で立ち竦んだと思ったら俺に手帳を持たせる。
「どうした?」
受け取り、カメラで撮れるだけ写真を収めると、彼女が辺たりの撒き散らされた遺体の持ち物を拾い集めている。流石の俺も此処まではと思ったが、彼女は何時もの平坦な表情を歪める事なくその行為を遂行していく。
「こうして彼女の物だった所持品を集めるのよ。そしてこれをどうするかは後のお楽しみよ」
一瞬悪戯をする子供の様な表情を浮かべると、拾った持ち物を鞄へと収めていった。彼女はこれらの物を一体どうするつもりなのだろうか、正直理解に苦しむ。確かにこう言った物を集めるのはやぶさかでは無いが、何かがきっかけでバレてしまったら一巻の終わりである。まあ嫌ではないが。
やる事はやれるだけ終え、名残惜しいが此処らで退散するのが良いだろう。
「で、この後どうするんだ?警察に連絡でもするのか?」
「は?しないわよそんな事、彼女は一生このまま私以外の誰かが見つけ出すまで此処で過ごしてもらう事になるわ」
先程まで興味津々だった死体には目もくれずに彼女は言い放つ。
確かに公衆電話を使って通報してもこんな辺境にある死体を見つけた時点で何かしらの疑いは掛かるだろう。そうしてしまえばこの手帳も彼女の手帳も失われてしまい、この楽しい探索会はお開きになるだろう。
「さいですか。まあ雪ノ下の好きにすればいいさこれは初めからお前の案件だからな、俺が口を挟む道理はない訳だ」
やれやれと両腕を上げ降伏のポーズを取る。どちらに転んでも俺には何もないんだから彼女に従ったほうがいいだろう。まあ通報した後に発表される、メディアによって根掘り葉掘り個人のプライバシーを踏みにじられたこの遺体の情報の発表会が気にならない訳ではないが。
「そうよ、わかっているじゃない。比企谷くんに私の指示に従う以外の選択肢など無いと言う事にようやく気づいた様ね」
フフフと平坦に笑う彼女に呆れながらも、来た道を辿って麓に下って行く。行きと違って迷う心配がない為か来た時よりも気持ち早く感じた。
しかし、疲れは余り変わらない様で途中の蕎麦屋で休憩する事になった。お互い文化部でインドア派なので体力がない事が悔やまれたが、此れはこれで普通に出掛けた思い出になるので良しとしよう。
こう言った話を家に帰った際にすると小町が安心した様な表情をするので、今回見たいな青春っぽいイベントに付き合う事は悪い気分では無い。
麓の蕎麦屋は特に繁盛はしていない様で駐車場もガラガラで、中に入ると俺達以外の客の姿は見えなかった。時間帯的にも昼食の時間は過ぎているせいも有るだろうが。
中に入ると、珍しく個室があったのでそこに案内してもらう。中に入り看板メニューなのかざる蕎麦を勧められたのでそれを注文し頂いた。
昼食を終え、彼女は先程の光景の余韻を楽しんでいる様に目を閉じて壁に寄り掛かっている。もしかして寝てない?と思ったが俺の視線に気付いたのか、余り見る物じゃ無いと咎められ代わりに先程回収した遺体の持ち物だった鞄を渡される。見ていいと言う事だろうか。
ならば遠慮せずに、と鞄を開き中身を物色する。
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