ハーメルン
転生して電子生命体になったのでヴァーチャル配信者になります
#6 文化復興省復興推進室

数百年ほど前より始まり、二十年ほど前に崩壊した究極で狂気的な効率至上主義は世界からあらゆる非効率なものを消し去った。
それには人が古来より脈々と受け継いできた文化、伝統、風習といったものも含まれていた。
確かに人類はかつてより人口を増やし、貧富の差も縮まりすべての人間が幸せを享受していた。
だが、それは一時的な幸せに過ぎなかった。

温故知新、故きを温ね新しきを知る。
人はいつも過去の歴史より学び、発展してきた。過去があるからこそ今より発展することが出来ていた。
だが、過去の人間の生み出したほとんどを捨てた今の人類は徐々にその発展速度を緩やかなものにしていた。
発展ができないということはつまり停滞していることであり、前に進めなくなったということだ。
完全な停滞はつまり、人類の衰退を意味している。

近い将来、人類は自らの愚行によって滅亡するだろう。

それを阻止するために組織されたのが『文化復興省』と呼ばれる機関だ。
かつて存在していた文化、伝統、風習のすべてをデータの海からサルベージしようという考えの下設立されたこの機関。
その役割はそれこそ人類の存亡がかかっているといってもいいほど重要なのだが、設立した政府の人間にもその重要性を理解していない人間がいる。

「そんな組織など、非効率だ」と。

だが、そんな中でも文化復興省は細々と活動していた。






とある一軒の住宅、3階建てで庭付き、都市部にあるにはかなりの物件であるその家のリビングで一人の女性がパソコンの前で眉間にしわを寄せていた。
ソファにぐっと体を預け、目頭を押さえる。

「ふむ……」

「お疲れですね"室長"。はい、コーヒーです。合成ですけど」

「ああ、"あかり"か、ありがとういただくわ」

室長と呼ばれた女性はあかりと呼ばれた少女からマグカップを受け取る。
耐熱合成樹脂で出来たマグカップからわずかに伝わる熱を感じながら、室長はコーヒーを少し口に含む。
合成のコーヒー豆で淹れたものではあるが、その独特の苦みに慣れ切った舌は問題なく受け入れ、のどへと伝わせていく。

「……何か問題でもあったんですか?」

あかりは遠慮がちに室長へ問う。室長がこのように目頭を押さえ、無言になるのは何か重要な事を話さなければいけない時であると長年の付き合いから把握していた。

「……前に話した、"先研"のネットダイブシステム、あれの完成の目途が付いたらしい」

その室長の言葉にあかりは目を見開き、身を乗り出す。

「そんなっ、あれだけ室長が反対してたのに!」

「仕方ないさ、私たちが復興省にせっつかれているのと同じように、先研も上の命令には逆らえん」

室長はコーヒーを口に含む、その苦さが現状を表している気がして、それ以上口が進まない。

「でも…」

「あかりの気持ちもわかるわ。ネットに意識をダイブさせることが普通になれば、文化、伝統の復興以前に、現実さえ放り捨てられる可能性がある。けど、これは決まったこと。私たちが抗議してもどうしようもないわ。それに、今はまだ目途が立っただけ、一般に普及するのはあと十数年はかかるわ、その間に私たちが若者の意識改革に勤しむしかない」

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