18話 悪役
魔を穿つ剣は、今までに見た事のないほどの輝きを放ち、遠く離れた地からもその光は見えていたという。
ほんの少し、人々は勝利を期待したが、それがはかない希望であったのだとすぐに気づく。
その首が斬り落とされ、そして炎により遺体すら回収する事が出来ず、復活させる事もできないという報告を受け、表情を変えることがなかったのは、聖王女であるカルカだけであった。
妹であるケラルトは必死に平静を取り繕おうとしたが、その涙を止める事は出来ず、しかしそれでも己の役割を全うしていた。
だが、カルカが非道かといえばそういう事もなく、そばにいた聖騎士は彼女のあまりにも握りしめられすぎて血の気の失った手に気づいていた。
王として前に出ている間は、悲しみを表情に出さないように耐えているのは明白であった。
ならばその意思を尊重し、その手については見て見ぬフリをした。
見える範囲のみであるが、亜人の城壁内への避難はレメディオスの時間稼ぎにより先ほど終了した。
だが、この程度の城壁であれば悪魔は簡単に破ってしまうであろう。
すぐにでも、聖王女だけでもここから退避をさせようとしたが、彼女は動くことはない。
ずっと、城壁の一番見晴らしのいい場所でその状況を子細に確認していた。
援軍はまだ来ない。
当然だろう。瞬間移動でもできない限り、普通はあと数日かかるところだ。そもそも、援軍が来る保証などないし、来てくれるたとして、勝てるかどうかも怪しいものだ。
「俺としたことが、少し遊びすぎてしまったようだ」
何かの魔法なのか城壁にまで聞こえる声でそう言って、悪魔は剣をどこかに仕舞ってしまうと、代わりに禍々しい見た目のマジックアイテムを手にしていた。
「あがいて見せろよ、人間ども」
そう言うや、アイテムから100を越える悪魔が呼び出される。
亜人達を襲っていた悪魔も、まだ全て倒し切れてはいないのに、いきなりこの数を対処するのは難しい。なにより、親玉である大悪魔がその後ろにまだ控えているのだ。
もうこれ以上、どうすることもできない。
ひたすら城壁を守るより他にない。
それが、無謀だと分かっていても。
そんな中、さらに別の集団が現れる。
その現れ方は異様であった。異次元の穴とでもいうべきか、何もない空間から亀裂の様なものが生まれたかと思うとそこから異形の者達が現れた。
まず、その先頭に立つのはアンデッドであった。
その後ろに、頭に角を生やし腰に翼を付けた異形の存在、他にはダークエルフの双子と、ひときわ目立つのは巨大な虫の様な化け物であった。
誰もが、彼らはウルベルトなる大悪魔が呼び寄せた援軍であろうと絶望した。
だが、そのあとに続いて出て来た存在達に、聖王国の民は相手が本当に敵であるのかが分からなくなる。
場違いに執事服を着た男はただの人間の様に見えた。そのあとに続くのは、冒険者と言った格好の5人組。ここまでは、それでもきっと彼らも恐ろしい化け物の仲間だろうと思っていたが、そのあとに続いて出てきたのは、王国の旗を持つ戦士団であった。
その先頭に立つガゼフ・ストロノーフの姿は、その顔を見知った聖騎士達が間違いなく本物だという。
冒険者の5人組も、王国のアダマンタイト級冒険者、青の薔薇ではないかという声が上がる。
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