第2部 責任
地下駐車場に軽自動車が入り、シャッターが下ろされた。
打ち捨てられたビルの窓から出ていた鍋やフライパンが引っ込み、拳ほどの鶏肉が飛び出し、独特な音をたてて地面に落下する。それを追って、ビルを囲んでいた死者達が一斉に群がった。
シャッター越しに、その光景を眺めていた達也が渋面する。
「何度見ても、胸糞悪ぃな。裕介、早いとこ荷物を降ろして、中に入るぞ」
後部座席を開き、段ボールを引きずり出していた裕介は、なにも言わずに頷く。そこで、地下駐車場とビル内を繋ぐ扉が開かれた。二人が顔を向けると、ショートカットで、まだ幼さを残す顔付きをした少女が手を振っていた。
「達也おじさん、お兄ちゃん、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま、亜里沙ちゃん」
迷彩服の上着を腰に巻いた加奈子が、白の半袖シャツの姿で駆け寄ってくる。裕介が、年齢を重ね、相応に育った身体なのだから、少しは気を使えと言い聞かせているのだけど、と苦笑を浮かべていると、ひょい、と顔を覗かせた加奈子が積まれた段ボールを指差す。
「今回も沢山あるね。まだ残ってた?」
「いや、もう残ってないよ。次の場所を探さなきゃいけなくなった」
そう裕介に返され、加奈子の表情が曇る。
裕介達が「街」と呼ぶビルには、現在、生き残った人々が三十名ほど暮らしており、今回の成果をそれぞれに配れば、恐らく、一週間も保たないだろう。いくら都心部に近くとも、物資を確保するのは至難の業、ましてや、次を探るとなると、場所も限られてくる。世界が衰退して五年、このビルを拠点にして三年、事態は悪化の一途を辿っていた。
「なに暗い顔してんだ、ほら、加奈子ちゃんも荷下ろしを手伝ってくれねぇかな。老体には腰にくるんだよ、この作業」
わざとらしく、腰に手を当てた達也に微笑んだ加奈子が返す。
「老体って言うけど、達也おじさんって、まだ三十前半じゃん」
「いやいや、それでも加奈子ちゃんの倍は生きてるんだから、十分老体だろ。ほら、さっさと手伝ってくれ」
はーーい、と間延びした返事のあと、後部座席に手を伸ばした加奈子は、段ボールの一つを持ち上げながら、思い出したように裕介に言った。
「そういえば、お兄ちゃん、お姉ちゃんが話しがあるって言ってたよ」
「亜里沙が?」
「うん、なんだか暗い感じだったし、ここは私がいるから、先に行ってきたら?ついでに、台車とか持ってきてくれたら嬉しいな」
それは加奈子ちゃんが持ってきてくれていたら、とは口にせず、達也に目線を送る。
「行ってきて良いぞ。こっちは下ろすだけだからな」
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