第3話
呆れた口調で首を振る伊藤に、賛成の立場にある数名が次々に賛同の声を出し始める。一週間分だけでは生きていけない、子供だっているんだぞ、もっとも大切な物は食料だ、外で何をしていた、人員を減らして辿り着いた結果がこれか、などと口々に罵倒が飛んでくる。
それに、気を良くした伊藤が一際大声で言った。
「服じゃ腹は膨れないんだよ、エキスパートさんよぉ!なあ!みん……!」
伊藤が言葉に詰まった理由は、無骨な筒状の何かが後頭部に当てられる感触があったからだ。あれだけ騒ぎ立てていた周囲も、いつの間にか静まり返っている。
息を呑んだ伊藤が目だけで振り返れば、鮮やかな迷彩柄のズボンが映る。
「随分と、ご機嫌みたいだな、伊藤」
「お……岡島……さん……」
伊藤がゆっくり両手を掲げていき、肩で止まると、額から吹き出した汗が、顎から滴り落ちた。
「そうだ、それで良い。でだ、裕介、これは一体、なんの騒ぎだ?」
岡島浩太は、伊藤に突き付けた拳銃を下げずに裕介に尋ねる。まるで、冷えた鏡のような感情が見えづらい浩太の問い掛けに、裕介は喉を上下させて言った。
「いや、今回の調達の成果がちょっと悪くて……浩太さん、報告していた場所は、もう、物が無くなってしまったんですけど……」
「そうか。で、次の当てはあるのか?」
「はい、あります。ただ、少し距離があるので、近いうちにまた達也さんと行ってきます」
浩太は満足そうな吐息をつくと、伊藤へ銃口を更に押し付ける。
「だ、そうだ。伊藤、それに、周辺にいる皆、物資のことは心配しなくても良いみたいだぞ」
エントランスホールの空気が安堵に揺れる。だが、それはすぐさま霧散し、全員の視線は、中央にいる三人に注がれる。いや、正確には、浩太と伊藤にだ。
水を打ったような静寂を破ったのは、浩太だ。
「それじゃ、本題に入ろう。なあ、伊藤、お前はどうして拳銃を突きつけられているのか理解しているか?」
これから何が起こるのか察したのか、伊藤の身体が小刻みに震え出し、裕介が目を細めた。
「こ、ここの治安を……乱したから……」
浩太の声が僅かに跳ねる。
「そうだ。治安を乱した、つまりは、お前にはある嫌疑がかけられている。俺達を裏切っている、もしくは、裏切るつもりなのかもしれない。俺に、この街の治安を守る責任がある内は……」
「まっ、待ってくれ!そんな事はしねぇよ!ただ、ちょっと不安が募っただけなんだ!裏切ったりなんて、有り得ねぇから!」
振り返ることなく遮った伊藤は、必死の形相で訴える。その叫びを受ける者の中には、裕介も含まれているようだ。
[9]前話 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/1
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク