第3話
あちらも車を盾にしているのかと警戒しながら、裕介が立てた指を前方に向け、サイドミラーで背後を監視してつつ、ナイフを引き抜き、視認した達也が車から降りる。
裕介は、並んだ車から延びる影を注視して、舌を打った。太陽が二人の背後にあるため、影でのチェックが出来ず、より危険が増していることを理解したからだ。迂闊だったと後悔しても、後戻りはできない。汗ばんだ掌にナイフを握り直し、もう一度、達也へ視線を送れば、ジェスチャーを交えて車に近付くことを伝えてきた。裕介が首肯したのち、達也がのそりと動き出す。ジリジリとした足取りで、距離を詰めていく中、裕介はここ数年で鋭敏に研ぎ澄ました感覚を頼りに、音や影を探し始める。
絶対にどこかにいるはずだ、そう信じて思考を巡らせていると、ある可能性に行き当たった。あの車列が、注意を向ける為の罠だとしたら、どうなる。達也は、サイドミラーで後方の確認はしていたものの、バックミラーの景色は段ボールに埋められて見えない。だとすれば、完璧に背後を確認できてはいない。
はっ、と息を呑んだ瞬間、裕介の後頭部に、筒上の何かが押し当てられ、低い声が聞こえた。
「動くな。両手を挙げて、ナイフをそのまま、地面に置け」
裕介は、右手に持っていたナイフを、そっ、と地面に置いて、頭の上に両手を挙げた。一呼吸の間を置いてから、旋毛に息がかかる。
「仲間は他にいるのか?」
筒の違和感が無くなりはしたが、裕介は黙然と首を振った。まだ、毛先に至るまで武骨な雰囲気は漂ってきている。こうなれば、頼れるのは達也だけだが、期待の相棒は車列にまで到着し、周辺を窺いつつ、廃車を動かして車が通れるくらいの幅を作ろうとしていた。
くっ、と奥歯を噛み締めた裕介は、細い息で問い掛ける。
「君のほうはどうなんだ?仲間が近くに潜んでいるのか?」
再び、冷たい筒の感触が後頭部に押し当てられる。意味するところは、余計な口を挟むな、だろう。それでも、裕介は浅く息を継ぎながら言った。
「押しつけたのは、答えと受け取るよ。そもそも、廃車を並べて壁にするなんてこと、一人じゃ出来ない……いるんだろ?この近くに……」
「そうだな。そこまで分かっているのなら、黙ってこちらの要求を呑んでもらえないか?」
「要求って?」
「確認するまでもないだろ?もちろん、オタクらの車に積まれた物資だ」
やっぱりか、と裕介が嘆息をつく。どのような意味合いで受け取ったのか、男はやや語尾を強めた。
「決断できないのなら端的にいってやる。物資と命、どちらが大切だ?」
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