鬼畜な修行をさせられた件について
ギンを見送った後のこと。
「行ってしまわれましたね、父上……」
杏寿郎が寂しそうにぽつりと呟いた。その言葉には同感だった。手間がかかる上にサボり癖のある少年だったが、この1年は新鮮なことばかりで、いつも驚かされてばかりだった。瑠火もこの日だけは目を赤く腫れさせて見送っていたのは印象的だった。さっきまでここにいたが瑠火はひと足早く家に戻ってしまった。今頃涙を拭いている頃だろう。
「ああ、どこまでも果てしない子供だった。苗のような少年だったのに、今では立派な大樹へと伸びつつある」
「……父上、腕は大丈夫なのですか?」
「なんだ、気付いていたのか?」
「はい。ギンは気付いていないようでしたが、右腕を庇うように動かれていましたから」
「そうか……見えたか?」
杏寿郎は首を振った。無理もない。あれだけの高速の剣戟はなかなかお目にかかれない。一般の隊士では最初の一撃目で倒れていただろう。
「八本目と九本目の突きは捌ききれなかった。骨は折れていないが、おそらくヒビは入っているだろう。あれでまだ11歳とは、末恐ろしい」
これからどんどん身体も成長していく。それと共に更に技に磨きがかかるだろう。数年後、彼が一体どんな剣士になっているのか。
「母上も気付いておりました。後で医者をお呼びするそうです」
「敵わないな……。まだまだ炎柱としてやっていくつもりだったが、俺も歳を取ったか」
「…………」
「悔しいのか、杏寿郎」
「いえ……」
「嘘はよくない。その握り締めた拳が、そう言っている」
「……はい。悔しいです、父上。ギンの技を見た時、不甲斐ないことに『今の俺では勝てない』と気付いてしまいました」
「そうか。今は、か」
「はい。今は、です」
「――明日からまた鍛錬だ。気を引き締めろ。お前は俺の息子なのだから」
「はい!父上!」
ギン。元気にやってこい。
必ず生きろ。死ぬな。最終選別が終わったら、また顔を出しに来い。剣士となったお前と会えるのを、楽しみにしているぞ。
◆月▼日
拝啓、煉獄槇寿郎様。いかがお過ごしでしょうか。手紙、嬉しかったです。
狭霧山に来てから三ヵ月が経過しました。最終選別まであと少し。杏寿郎が合格したと聞き、胸のつかえがとれた気分です。
私は現在、"目隠し修行"と言う常軌を逸したブートキャンプが敢行されており、正直真っ暗です。なーんにも見えません。
槇寿郎様の紹介で狭霧山で鱗滝左近次殿に稽古を付けて頂いておりますが、はっきり言ってこれほどあなた様を恨んだことはありません。
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