ハーメルン
え?蟲師の世界じゃないの?
蟲と華と蝶と 後

「ここがお前の部屋だ。置いてある物はすべて使っていい」
「わぁ……」

 ギンさんにまず案内されたのは、私の部屋だった。畳に布団が敷かれ、窓から太陽の光が入ってきてとても明るい。多分、この屋敷で一番日当たりが良い場所だとすぐに分かった。
 そして何より目につくのは、西洋の机と椅子、そして大きな本棚だ。
 机には最新の医療機器や実験道具がぎっしりと並べられており、本棚には最近翻訳されたばかりの真新しい医学書や、薬学の調合書、蟲や鬼の研究結果の記録があった。
 
「わぁ……わぁ……!」

 蟲屋敷に来るまでずっと不機嫌だった心が明るくなっていくのを感じた。まるで、菓子屋に連れて行かれた子供の気分だった。こんなに嬉しくてわくわくするのは久しぶりだった。

「とりあえず、生活に困らない家具は適当に揃えておいた。それ以外に必要な物があったら、カラスを使って隠に欲しい物を伝えておけ。金は俺が持つ」
「こんなに……いいんですか?私は頸も斬れない剣士なのに、こんな高価な設備を与えてしまって……」
「何、必要経費って奴だ。それに、お前が医学に通じているのはカナエから聞いている。遠慮することはない」

 ギンさんはそう言って笑った。
 純粋に嬉しかった。これだけ設備が整っていれば、()()()()も――

「もちろん、タダではない。名目上、仮でも俺の継子だからな。仕事はきっちりしてもらう」

 いけない。浮かれすぎてしまったが、私は立場上この人の継子。そして胡蝶カナエの妹だ。鬼殺の剣士として、仕事と役目はきっちり果たさなければ。

「そうですね。ここまでの環境を与えてもらって何もしなければ、姉さんに叱られてしまいます。それで、私はここで何をすればいいのですか?」
「まずは、蟲の研究。お前さんも蟲が見えるからな。自分の身を守るためにも、蟲についての知識を身に着けてもらう」
「はい」
「それと、鬼の研究だ。具体的な最終目的を言うと、鬼を殺す毒を作りたい」
「えっ」

 その時私は、人生で一番間抜けな顔をしていたと思う。だって、今ギンさんが言ったことは、私がやろうとしていたことだからだ。

「な、なんで」
「ん?お前も、鬼を殺す毒を作ろうと考えてたんじゃないのか?この間蝶屋敷の部屋に置いてあった薬学書を見れば、大体分かったぞ」

 あ、あれだけで私の目的を察したの!?なんて勘が良いのこの人……姉さんにもバレていなかったのに。

「先生も鬼を殺す毒を?でも先生は、柱になれるほど鬼を殺せたんですよね。一体なぜ……」
「あー……そうだな。俺が"蟲柱"と呼ばれているのは知っているだろう?」
「は、はい」
「この称号は、ただ蟲が見えるからってだけじゃない。俺が柱の中で唯一、剣士でありながら研究者だから、この称号をもらったんだ。蟲と鬼を研究する柱、それが俺。"蟲柱"鹿神ギンの役目なんだよ」

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