入学初日
あれは、いつの頃の話だっただろうか。
周りから笑顔の気持ち悪い子と言われ避けられていた子を可愛いと思い、周りから色々言われつつも一緒に遊び。子どもながらに立派な恋をして。
肌を突き破られ、血を吸われたのは。
普通の子どもならその時点で怖がって近づかないと思う。が、俺はおかしかったのか、それとも実は周りがおかしいのか、俺は血を吸われて嬉しかった。なぜなら、その子にとって特定の誰かの血を吸うことは好きな人にキスをするように、愛する行為だと心のどこかで感じ取ったからだ。
まぁ、本人がどう感じ取ろうと大人からすれば関係ないわけで。
その子とは物理的に距離を離され、その日から一度も会わないまま、敵になったという情報だけを得て今に至る。ただ、そんな経験をして、親からやめておけと言われても、恋は盲目というかなんというか。
まだその子のことを好きなのだから、やはり俺はおかしいのかもしれない。
「うーん、キマってる」
姿見の前でポーズ。背は少し低いが顔がいいので、制服を着るとよりカッコよく見える。……背が低いのはタバコのせいか?やめときゃよかったか。なんだかんだいい先輩と出会えたきっかけではあるから、後悔はしていないけど。
「そんじゃ、いってきます」
俺が家を出るころには家に誰もいない。両親ともに朝早くから出勤である。最後にご苦労様と伝えたのは何年前だろうか。ヒーローになると会う暇もなくなるだろうから、今のうちに親孝行をしておいた方がいいかもしれない。
雄英高校ヒーロー科に合格した、という通知がきたのは試験を受けて一週間後だった。あの日は母親が慌てて機動隊ばりに俺の部屋に突入し、通知を投げつけてきたのを覚えている。そこまで慌てなくてもと思ったが、受験したのが天下の雄英なので無理もないかと変に冷静だった。あの自分より慌てている人を見たら冷静になるというやつである。
通知を見ると、投影されたのはオールマイト。どうやら雄英で教師をすることになったらしく、一人ひとりにこうやってメッセージを送っているそうだ。まぁ、メッセージ自体は要約すると合格おめでとうという簡単なものだったが。
と、絶対に受かると思いつつ内心びくびくしていた俺は無事雄英に合格することができた。晴れてヒーロー科42人の仲間入りである。
雄英ヒーロー科は21人が2クラスの合計42人。そのうち推薦入試組が4人、だったか。雄英に推薦入試で入るとは、きっとものすごいやつなのだろう。あのツンツン頭よりすごいってもうそれは人ではなく化け物かなにかだと思うのだが、どうだろう。そういえばあいつらの名前聞くの忘れてたな。多分俺のせいだけど。
「……お?」
そんなことを考えながら通学路を歩いていると、前の方に見覚えのあるツンツン頭がいた。きっちり雄英の制服を着ているし、アレは見間違えようもない。ここで声をかけないのはないだろうと小走りで近づき、挨拶した。
「よっ、おはよ」
「……」
目線だけこちらに寄越し、中指を立てるツンツン頭。そういえばイヤホンしてるなこいつ。
「人と話すときはイヤホンしちゃダメなんだぞ?」
「……」
更にもう片方の手の中指を立て、こちらに向けてきた。なるほど。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク