卸したてのズボンに、バイト代をはたいて買ったジャケット。
今日の僕は、我ながら完璧だったと思う。
予定やするべき行動も頭に叩き込んできたので、夏休み終了一週間前に宿題を全部済ませたみたいな気分。
や、生まれてこの方、夏休みの最終日まで宿題を終えたことはないけどさ。
とにかく、今日の僕は絶好調だった。
ぐっすり眠って目覚ましのセットした時刻前に目が覚めて、身体に調子が悪いところもない。
あんまり調子が良くて、楽しみ過ぎて、一時間以上前に待ち合わせの駅ビル前についたくらいだ。
遅刻はダメだけど、早く来るぶんにはいいよね。
早くみんなも来ないかな~っと。
手持無沙汰でスマホを弄ってると、目の前をコートを着た若い女の人が歩いて行く。
続いてカツンと何かが落ちたような音。
足もとを見ると…なんだこりゃ? ペンダント? 麻雀の点棒みたいな感じのやつ。
材質は紫水晶っぽいかも。
あのお姉さんが落としたのかな?
お~い、お姉さん、ちょっと待って!
「なに?」
落としましたよ? はい、これ。
「見たの…?」
そりゃ見ましたよ。って、あれ? サングラスを外したこのお姉さん、どこかで見た記憶が…。
もしかして、マリア・カデンなんちゃら・イヴさん!?
やべ、マジで本物?
だったら凄いや、握手して貰えませんか?
って、何、この黒服のお兄さんたちは?
もしかしてマリアさんのボディーガード?
はいはい、避けますよ、避けますから。
え? ちょっとなにすんだよッ! 警察呼ぶよ…むぐッ!?
…はい。なんか歩道に横づけにされたワゴンに乗せられました。
拉致でしょうか。誘拐でしょうか。
真ん中の座席にすわらされ、左右を黒服のお兄さんにガッチリ腕を掴まれて、なんか目隠しされてます。
はっきりいって怖いです。生きた心地がしません。
あの~? 僕はどこに連れていかれるんですかね?
返事がありません。沈黙が嫌すぎます。
もしかして、マリアさんに触っちゃったからですかね? だったら謝りますから勘弁してもらえませんか?
僕、これからとっても大切な約束が…。
はい、無視ですか。そうですか。
ドラマなんかだと、ポケットに入れたスマホを指先だけで操作して誰かに助けを求めたりするんだろうけど、車に乗せられてまっさきにボッシュ―トです。
なので、怖いけど、暇です。
若者のスマホ依存ってマジでヤバいよね。
どれくらい車が走ったんだろう?
なんかどこかに停まったらしく、腕をひっぱられて外に出ました。
なんか湿っぽい感じがするから、地下みたい?
鼻をひくひくさせていると、ぐいぐい背中を押されました。
歩くと床がコツコツと音を立てます。
ガチャン、バタンとドアの開く音。
肩を掴まれて、椅子に座らされて、いきなり目隠しを取られて、視界が真っ白。
ようやく目が慣れてくると…なんだこりゃ?
まるで刑事ドラマの取り調べ室みたいじゃないか。
「やあ、こんにちは」
対面の、中年のおじさんがにっこり。
あの~、僕はなんでここに?
ひょっとしてここは警察署ですか? 僕は警察のお世話になるようなことをした記憶はないですよ? マリアさんに握手すらしてもらってないし。
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