マム&マリアさん
五月某日。
僕らは都内のとある河川敷へとやってきていた。
土手を降りると結構開けた広場になっていて、バックネット付きのホームベースが設置されている。
晴れ渡った青空に日差しも暖かく、ちょっと運動したら汗ばみそうな感じの陽気だ。
「ごめんなさいね、せっかくの休日なのに」
隣を歩くマリアさんは申し訳なさそう。
今日はマリアさんの職場の親睦会。これからこの河川敷でソフトボールをするんだとか。
いえいえ、僕も誘って貰えて嬉しいですよ?
会社のレクリエーションってのは、社員が家族ぐるみで参加するそうだ。
なら夫婦で参加しても何も不思議じゃあない。
まあ、マリアさんの職場に一般企業の定義が当て嵌まるのかは謎だけどさ。
「そういって貰えるとわたしも助かるわ」
にっこりしてマリアさんは僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
とても嬉しい反面、今の僕は荷物を抱えているので少々歩きづらい。
ソフトボールのあとはバーベキューで飲み会をするそうで、荷物はその材料の一部である。
「あ、マリアたちが来たデス!」
切歌の声。
見れば、バックネット裏には既に人が集まっていた。どうやら僕たちが最後のよう。
土手の階段を降りて荷物を置き、まずは皆に挨拶。
おはようございます。今日は誘って頂いてありがとうございます。
「うむ。よくきてくれたな」
ジャージ下にタンクトップから剥き出しの二の腕も逞しい大男は、風鳴弦十郎さん。
マリアさんの所属する組織の一番偉い人だけど、気さくな人だ。
実は僕たちが結婚するにあたり、仲人役をしてもらっていたり。
友里さん、藤尭さん、緒川さんもおはようございます。
この三人も、日頃からマリアさんが大変お世話になっているということで、披露宴に参加してもらっていた。
「二人とも、新婚生活はどう?」
友里さんが訊ねてくる。マリアさんと違ったタイプの美人さんで、彼女の淹れるコーヒーは絶品だとか。
ええ、毎日が楽しいですよ?
正直に僕は答える。
式を挙げたのは去年の六月末だから、結婚してまだ一年経っていない。
けれど。
一緒に暮らしていると、色々と可愛いところが見えてくるんです。
だから益々マリアさんのことを好きになってしまうというか…。
「ちょ、ちょっと、ハルトッ!」
ドン! とマリアさんに肩を叩かれる。
おっと、危ない危ない、うっかり口が滑るところだった。
顔を赤くして睨んでくるマリアさんに、謝罪の意味を込めて笑いかける。
大切なぬいぐるみコレクションのことは絶対に口外しないから安心して下さい、ってね。
「…相変わらず暑ッ苦しいデスね」
切歌がパタパタと手で自分を扇いでいる。その隣の調からもジト目で見られてしまった。
もっとも僕としては、二人の反応はいつも通りの想定内でノーダメージである。
「マリアさんたちは夫婦揃って仲良さそうで羨ましいです! ね、翼さんッ!」
陽気な声を張り上げたのは立花響さん。
マリアさんと同じシンフォギアとかいうものを纏える選ばれた人間で、古い付き合いの仲間だそうだ。
もちろん彼女も披露宴に参加してもらったけれど、凄い食べっぷりだった。あとで、例の文化祭のカレー事件の主犯だと教えてもらったときは、さもありなんって思ったもん。
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