侯爵編
<宇宙暦795年/帝国暦486年3月>
ヴェレファング・フォン・クロプシュトック二十四歳。
ゴールデンバウム朝銀河帝国軍における階級は大将。
クロプシュトック侯爵家当主のウィルヘルムは、孫のヴェルの銀河帝国軍内での栄達を我が事のように喜んでいた。
クロプシュトック侯爵家復権の日も近いとウキウキのウィルヘルム。
その様子からヴェルはクロプシュトック事件発生の恐れはもう無くなったと踏んでいた。
だが、運命の悪戯かクロプシュトック事件が起こるはずのブラウンシュヴァイク公主催のエリザベート嬢の誕生パーティの当日、なんとそのウィルヘルムが心臓発作で急死してしまう。
急遽ヴェルはクロプシュトック侯爵位を継承せねばならなくなった。
参内してフリードリヒ四世に拝謁するヴェル。
爵位の継承と共に、当代の銀河皇帝の鶴の一声でヴェルに婚約者があてがわれる事になる。
宰相代理のリヒテンラーデ侯に相手は誰が良いか相談するフリードリヒ四世。
リヒテンラーデ侯は帝国貴族内でも非主流派であるマリーンドルフ伯爵家令嬢のヒルデガルド(十八歳)を推挙し、皇帝がそれを受け入れた為、婚約が決定する。
予想外の展開に驚くヴェルであったが、その決定を断るにはまだ力が足りず、謹んで受け入れざるを得なかった。
婚儀を上げる前に予め愛人との関係を清算しておくよう釘を刺してくるリヒテンラーデ侯。
暗にアンネローゼの事を仄めかしていた。
皇帝自らが斡旋した由緒正しい名家同士の婚姻である為、当然の措置であろう。
これはフリードリッヒ四世の古くからの廷臣たちが仕掛けた、慶事とかこつけての陰湿な嫌がらせであった。
ブラウンシュヴァイク公を初めとする廷臣たちは、クロプシュトック侯爵家を未だに許してはいなかった。
そのクロプシュトック侯爵家の小せがれが、軍功を重ねて一気に帝国軍大将まで駆け上り、軍部内で威勢を振るい始めている。
ヘルクスハイマー伯爵の一件もあって流石に看過出来ず、ブラウンシュヴァイク公は己の配下であるアントン・フェルナー大佐にヴェルの身辺を洗うよう命じていた。
フェルナー大佐はヴェルの愛妾のアンネローゼの事も調べ上げ、コルヴィッツにもヒアリングを行い、主君に報告を上げる。
クロプシュトック家の忌々しい黒蛇が、陛下の後宮に入るはずだったアンネローゼを横取りし、手元に置き続けてひたすら寵愛している。
まるで陛下に当て付けているようではないか!と憤る廷臣たち。
彼らは合法的にヴェルとアンネローゼの仲を裂こうと、皇帝を巻き込んで謀略を仕掛けてきたのである。
ちなみに発案者はブラウンシュヴァイク公の甥のフレーゲル男爵である。
フレーゲル男爵個人は「平民腹のエセ貴族には、騎士階級出の貧乏女程度がお似合いだ」と考えており、逆にヴェルには感謝して貰いたいくらいだと嘯く始末であった。
己の治世を諦観していたフリードリッヒ四世は、廷臣たちのその目論見についても黙認する。
愛しい妾との仲を引き裂かれ、ヘイトを溜めた若きヴェルが銀河帝国を滅ぼすのなら、それもまた良しのスタンスを取る。
原作知識によりフリードリヒ四世のその考えはヴェルも重々承知な為、あえて逆らおうとしなかった。
こうしてヴェルのクロプシュトック侯爵叙任と共に、ヴェルのヒルデガルドとの婚約が正式に発表される。
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