第4話 初恋の人は天使だった。
すでに時刻は19時を過ぎている。高校生組と合流し、俺たちは千葉駅までやってきた。運よく母さんが早く帰ってきているから、けーちゃんのことは安心だ。
姉さんがどこかへ出かけてから1時間なので、もしかするとバイト先で会うかもしれないが、予想が正しければここで会うことはない。
「……ここかしら?」
「えんじぇるているって書いてるし、ここだよね?」
見慣れない建物を、雪ノ下さんは額に手を当てて観察していた。カラフルな装飾は薄暗くなってきた街を奇抜に照らしている。いわゆるメイドカフェなのだが、本音を言えば、俺もこの店に入りたくはないし、入ったこともない。
『萌え萌えキュン』っていう録音再生が耳に障る。
「メイドカフェって聞いたことはあるんだけど、どんなお店なの?」
戸塚さんが顎に人差し指を当てて、ちょこんと首を傾げる。ぶっちゃけここの店員さんよりこの先輩が可愛いと、俺も思う。八幡先輩に至っては頬を染めていて、もし彼が働いていれば彼を毎日指名するまである。
「コスプレした店員さんがスタッフの、一応カフェですかね。」
需要は基本的に男子にあるし、なんだか浮気しているみたいで、八幡先輩に無理やりパスする。
「まあ、そういうものだな。俺も実際に行ったことはないから、詳しいやつを呼んだんだが……」
かなり体格のいい、たぶん男子高校生。
うわぁ……と由比ヶ浜さんが嫌悪感を示した。
「やあやあ!八幡、どうやら待たせてしまったようだな!!」
「この人、お兄ちゃんの友達?」
「いや、知り合い未満。」
こそこそと話していても、彼はじっと八幡先輩を見つめたままだ。
「はじめまして。川崎大志、中3です」
「同じく、比企谷小町です」
初対面である俺たちは、軽い会釈とともに自己紹介をしておく。
「ほう! 比企谷とな!?」
冬に着るようなコートを翻して、汗まみれの顔の前にグローブをした手を翳して、我は剣豪将軍材木座義輝と、彼は己の名を告げた。
昔のお兄ちゃんみたい、って比企谷さんがボソッと呟いた。俺も八幡先輩も古傷が疼いてしまっていた。
「八幡貴様ッ!よもや妹君を隠していたとはな!?」
「そりゃあ隠すわ。来年うちの高校に入学するし、俺には醜聞しかないんだから」
「ずいぶんと身の程をわきまえているのね。でも大丈夫よ、小町さん。あなたの兄は存在すらあまり認知されていないわ」
「慰めながら貶すとか、ほんと器用だなお前」
特に、いじめを受けているわけではないらしい。
ボッチとしてひっそりと生活しているのだろう。
「は、八幡も良いところ、いっぱいあるよ?」
「……あのさ。今日は戸塚、君を指名していいかな?」
「えっと……?」
「いや、なんでもない。」
「さすがだな、八幡。さすが我が同志よ。」
うんうんと材木座さんが頷きながら、背中から1つの服を取り出す。それはいわゆるメイド服というやつだ。なんでそれを持っているのかという疑問が生じると同時に、どこまで欲望に忠実なのだと唖然とする。
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