ハーメルン
TSっ娘が悲惨な未来を変えようと頑張る話
時の悪魔

「楽しかったよな」

 彼女は、僕の目を真っすぐに見据えそう言った。

「落とし穴につまみ食い、木登りに魚釣り、弦楽祭に収穫祭。短い人生だったけど、今までずっと一緒に過ごしてきたアンタは私の友人だと思ってた」

 軽い口調で、朗らかな表情で、声に何の抑揚も乗せず。リーゼは、僕の初恋の人は、静かに僕の瞳を覗き込んだ。

「……なぁ。いくら友人でもさ、アンタにどんな事情があったとしてもさ」

 一方で僕は、そんなリーゼの瞳を直視できない。

 直視できるはずもない。だって、彼女はこれから─────






「─────流石に怨むよ、これは」






 シャ。

 無機質な音を立てて、彼女の後ろに立つ男が剣を鞘から抜き放つ。

「本当に? 本当に殺る気かよ、お前」
「……」
「何とか言え。何か言ってみろよ、ポッド!!!」

 全身を縄で縛られ、背後に立つ男に剣を首元に添えられて。リーゼは、涙を目に浮かべ僕を睨みつける。

「ポッド、もうお前はそっち側の人間なんだな!! 権力をかさに、私ら平民を好き放題出来るって思ってんだな!」
「……」
「所詮は貴族か、家が大事か!! 友達より、村のみんなより、自分の権力が大事なのか!!」
「……」
「恨む、怨む、怨んでやる!! ポッド、お前は地獄に落ちて死後も永遠に苦しめ!! 一度でもお前の事を友人と思った自分が恥ずかしい!!」
「……っ」

 彼女は、反乱を企てた。だから今日、処刑台に連れてこられ『村長』である僕の目の前で処刑される。

 乱を企てる農民の処遇はすなわち、死刑。権力側がどれほど間違った事をしていたとしても、殺されるのは常に力無き民なのだ。

 彼女が、余計な『考え』を持たなければこんなことにならずに済んだ。僕は悪くない、不穏な考えを持った彼女が悪いんだ。だからこれは、リーゼの自業自得。

 ─────自業自得。

「この、村の裏切り者!!!」

 その金切り声を断末魔に、リーゼは胸元にブスリと剣を突き立てられ。血反吐を吐き散らしながら、ゆっくりと目が上転し。

「呪って、や、る……」

 やがて、動かなくなった。

















 僕の名前はポッドと言う。年はまだ二十歳を超えただけの若造だが、下級貴族であり村長でもあった父が3年前に死んで、その役割を受け継いだ。

 下級貴族と言っても、僕の父の立場は農民に近い。王宮に出入りを許されておらず、領地を持たされてもいない名ばかりの貴族。辺境の小さな集落で『村長』の役割を任されているだけの、まさに底辺オブ底辺な貴族だった。

 だから、父は変な貴族らしいプライドを持っておらず。その息子である僕も村の子供と一緒に泥遊びをして過ごすくらいに、父は庶民的な貴族だった。

「ポッド。お前は村のリーダーになる必要はない」

 流行り病で床に伏せった父が、最期に僕に残した言葉はこれだった。

「村の意見を纏めて、それをお上につなぐ役目がお前なんだ。分からないことが有れば、年上の……例えばレイゼイ爺さんだとか、その辺りによく相談しろ。貴族だからえらいだとか、間違ってもそんな妄想に取り憑かれるな」

[1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/21

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析