殺意と屍
戦線は、早くも硬直していた。
「……流石に、引いちゃくれねぇみたいだな」
「うん。奴等、突撃する準備をしているね」
リーゼの神業染みた狙撃で、早くも敵の指揮官を討ち取った僕達。しかし、彼等はおとなしく撤退するどころか、殺意をむき出しに盾を持った物々しい連中で陣形を組んで突撃の準備をし始めた。
矢が飛んでくることが分かっているからか、装甲の厚い兵科で突入口を確保する狙いの様だ。
「────、あいつだ。あいつが、ランド兄さんが殺された時に居た剣士」
「あの、怖そうな女か?」
「そう。父さんを切りつけたのもあいつ」
その突撃部隊の中央には、確か「アマンダ」と名乗った憎き女剣士が居た。彼女が、突撃部隊の指揮官らしい。
恐らく、奴は斥候兵の隊長か何かだろう。彼女のみは盾を持たず、悠然と部隊の最前部で剣を構えている。
……そして。
「……来たっ」
そのアマンダとか言う奴は、獣のような激しい咆哮と共に、正面切って僕達の森に突っ込んできた。
指揮官自ら正面に立つとは、正気の沙汰とは思えない。その迂闊さを、利用させてもらう。
「リーゼの矢が外れたら、僕らであの女剣士を仕留めるよ。不意打ちなら何とかなるかも」
「ああ。ポートの親父の傷のお返しをしないとな」
物凄い勢いで、森へ突進してくる敵兵達。そんな彼等は、まさしく良い的だ。盾を持っているとはいえ、体の大部分はむき出しである。
僕はボーラを構え、心を集中させた。絶対に外さない、ここであいつを殺してやる。
「……ハァッ!!」
その時。ひょうっと放たれた弓矢が2本、アマンダの剣に叩き落とされた。
「見つけた。そこかぁぁぉっ!!」
え、打ち落としたの? この暗闇で、音もなく飛んできた弓矢を!?
しかも、矢が飛んできた方向を見据え叫んでいる。
「げ、あっちって確かリーゼが隠れるって言ってた場所だ」
「狙撃位置まで特定したのか。……仕方ない、こっちからも攻撃してすぐ逃げるよ!」
「あの指揮官を狙うのはやめておけ! あいつ、ちょっとヤバそうだ!」
「……分かった!」
リーゼを危険に晒す訳にはいかない。僕はよくよく狙ってボーラをアマンダと共に突撃してきた兵士の一人に投擲した。
ここにも敵が潜んでいるぞ、こちらにも兵士を分けろ。そう知らせてやるために。
「おし、当たった。そうだよな、普通は当たるよな」
「ただし、僕達の位置も多分バレたね。急いで逃げるよラルフ!」
僕の投げたボーラは、兵士に絡まって上手く行動不能に出来た。石に麻痺毒も塗ってある、あの兵は少なくとも今日一日はろくに動けないだろう。
だが、兵士の何人かが僕達をロックオンした。よし、このまま引き付けよう。
「ここからが正念場だ。気合いいれていくぞポート!」
「うん!」
敵を分散させ、少人数で各個撃破する。これこそ、本来僕達の想定していた戦術だ。
まさか超遠距離狙撃で先制攻撃出来るとか全く想像していなかった。リーゼってあんなに凄いんだな。
「ざっと十数人来てるね!」
「ちょうど良い数だ!」
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