執政
「比企谷君、怪我はありませんか?」
図書館を出ると椎名が心配そうに話しかけている。他人事なのに凄く心配そうに話しかけられると申し訳なく思ってしまう。
「大丈夫だ。特に怪我はしてない」
「なら良かったです。でも学校に報告しなくて良いんですか?」
「ああ。色々面倒だし」
椎名にそう言うが本当の理由は別にある。須藤は龍園のおもちゃ候補で色々と企んでいる。そこで俺が先生に報告したら龍園の企みの邪魔になるかもしれないからな。
「まあ比企谷君が言うなら止めませんけど、痛いなら保健室に連れて行きますからね?」
「大丈夫だって。そんな心配すんな」
「無理です。私にとって比企谷君は一番の友達だから心配です」
っ……だからコイツはそんなことをハッキリ言うなよ。本当にドキドキしてしまうわ。
「……ありがとな」
そう言うことしか言えない。コミュ障が痛手となってるな。
「どういたしまして」
しかし椎名は俺を気遣っているのか簡潔に返してくる。こういった淡々としたやり取りは俺も気が楽だからありがたい。
そんな風に妙に幸せな気分になりながらも廊下を歩いていると、2つのクリアファイルを持った龍園が楽しそうな表情を浮かべて俺に近寄ってくる。
「おい比企谷。なんかトラブルに巻き込まれたんだろ?話せよ」
「何でわかった?」
「胸元だよ。いつもぴっちり制服を着てる癖に今はしわしわだぞ」
目敏いなコイツ。ま、そうでなきゃ上を目指すのは無理だろうけど。
「図書館で須藤って奴に胸倉を掴まれたんだよ」
「あのゴリラか。で?学校にはチクるのか?」
「いや。やめておく。お前としてもその方がいいだろ?」
「違いねぇな」
やっぱり何か企んでたのかよ。頼むから俺を巻き込むなよ?
「で?そのクリアファイルは何だ?中にプリントがあるが坂上先生にプリントを運ぶように頼まれたのか?」
まあコイツの性格的に頼まれても断るだろうけど。
「お前らから貰った攻略法だ」
ああ……テスト1週間前に攻略法を発表するのか。ま、妥当なところだな。
そう思いながら教室に入ると空気が若干重くなるが龍園の所為だな。
当の本人は全く気にした素振りを見せる事なく、教卓に乗って辺りを見渡す。
「全員いるみたいだな。早速だが王の俺から駒のお前らに渡す物がある。比企谷と椎名以外全員席に着け」
龍園がそう言うと俺と椎名以外全員が席に着く。不満そうな表情を浮かべているのは龍園を気に入ってない連中だろうが、しかし何故俺と椎名は立たせたんだ?
疑問を抱いていると龍園は俺に赤いクリアファイルを、椎名に青いクリアファイルを渡してくる。
「配れ」
あ、そういう事ね。俺は納得しながら赤いクリアファイルからプリントを取り出して1番前の席にいる生徒に渡す。椎名も同じように青いクリアファイルからプリントを取り出して同じように渡す。
全員にプリントが行き渡った所で、龍園が口を開ける。
「全員に行き渡ったな?コイツは今の2年と3年が1年の時に受けた最初の中間試験の問題用紙と解答用紙、更に最初に受けた小テストの問題用紙と解答用紙だ。今日の昼休みに上級生から買ってコピーした」
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