ハーメルン
忘れられた物語に結末を
三話 悪鬼降臨

それから幽月は医者の珠世の助手として数十年間ほど各地を点々と渡り歩いた。

珠世は人間の医者として表向の世界を生き、夜には鬼の専門家として人の肉を喰らう悪鬼達に対抗する研究をしていた。幽月はそこで珠世の技術を見習いながら、助手としてそれなりに勤めていた。

ただ鬼の研究というものはあまりにも難解なものであり、珠世の頭脳と莫大な歳月があったとしても順調にはいかなかった。それに幽月以降、人を鬼にする治療は成功していない。両者の最終目標である鬼達のボス、鬼舞辻無惨の殺害は絶望的に思われた。

そして、あるとき幽月は言った。

「やっぱり上弦の鬼からより濃い無惨の血を手に入れて調べるしかないんだろうね」

“上弦の鬼”。それは鬼達のボスである鬼舞辻無惨直属の部下“十二鬼月”その上位六体の鬼を指す言葉である。ちなみに下位六匹は“下弦の鬼”というがあれは雑魚である。そして今の研究にはサンプルとなる高濃度の無惨の血が足りていなかった。

「珠世さん、提案なんだけど今から五十年は別行動をしてみない?」

「別行動ですか?」

「ええ。珠世さんは今まで通りに鬼の研究、俺は上弦の鬼と接触して採血を試みるってどう?その方が効率が良いし、お互いに得意の分野を活かすことができる」

「得意の分野ですか…」

そう言うと珠世は少し考え込んだが、直ぐに答えを出した。

「そうですね。このまま同じやり方をしていても、らちがあかないのも事実です。貴方の言う通り、取り敢えず五十年程は別行動としてみましょう。それに貴方は元鬼殺隊であり鬼舞辻無惨と並んで唯一鬼を殺せる血鬼術を持っています。それが何かの打開策になるかもしれません。ですが、くれぐれも無茶はしないように」

「ええ。珠世さんもお気をつけて。くれぐれも結果に焦らず思い詰めすぎないようにしてください」

それから珠世と別行動をし始めた幽月は上弦の鬼を追い求めて放浪の旅を始めた。

だが、数十年は上弦の鬼に接触するどころか手掛かりすら掴めなかった。鬼が出たと言われた場所に駆けつけても普通の鬼だったり下弦の鬼ばかり。

そして、ある真夜中の深い森にて、幽月はいつものように情報収集に勤しんでいた。

「上弦の鬼どこにいるか知らない?」

「助けてくれ…!」

「会話になってないな。もういいよ。取り敢えず死んでみる?」

幽月は片手で首根っこを掴み上げていた鬼から全ての血を吸い上げた。鬼の身体は再生することなく朽ち果てて塵芥となって消え失せた。

それから幽月は取り込んだ血から無惨の血だけを分解すると体の糧にした。これで暫くは空腹は満たされるだろう。

幽月の血鬼術は人を喰らわない代わりに鬼を喰らい自らの糧にすることに特化していた。この力のおかげで幽月は鬼としての人間の血肉を喰らう食事を必要としていなかった。

ただ、その血鬼術は他所から見れば異様な光景である。唐突に首を掴まれ持ち上げた者がミイラのように乾燥し塵となって消えるのだ。しかも、それが不老不死故に殺し合いが不毛とされる鬼同士の争いでそうなるとすると。

「鬼舞辻無惨…⁉︎」

幽月が振り返ると二つの蝶の髪飾りをした長身の女性が立っていた。幽月には彼女が何者であるのか直ぐに察することができた。今は忌々しく感じてしまう日輪刀の脇差に、かつては己も背に掲げた悪鬼滅殺の滅の文字。服装は時代に合わせてか黒の詰襟になっていた。

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