04:予期せぬ契約
「うーむ、何というか判断に困るものだな」
王国辺境で一番大きな町の冒険者ギルド支部長である初老の男は、ある件の事情聴取を済ませて何とも言えない表情で思案していた。
「《看破》を使いましたので、彼の言い分に嘘はなかったということは保証致します」
事情聴取に立ち会った至高神の神官でもあるギルド職員が証言する。
「いや、君の鑑定を疑っているわけではない。彼は婉曲な言い回しや誤解を招くような答え方はしなかったからね。
だが、そうなると、彼の吸血鬼と戦った結果、最後の悪足掻きでどこへとも知れぬ場所へ飛ばされたと言うことになる」
「永きを生きる吸血鬼ならば、《転移》が使えてもおかしくないのではないでしょうか?」
「勿論、それはその通りだが、だとするとそれ程の力をもった吸血鬼が近隣にいる可能性があるということになってしまう」
「彼は息の根を止めたと言ってましたし、それにも嘘はありませんでしたが?」
「ああ、そうだったな。だが、そうなると今度は吸血鬼を独力で倒せてしまうほどの剣士がここにいるということになるのだが……」
「調査に赴いた先輩や、護衛冒険者の一党も証言していますが、人喰鬼を瞬殺出来る程の凄腕なのは間違いないみたいですからね」
「何を他人事みたいに言っているんだね。そんな凄腕を駆け出し冒険者として扱わねばならないと思うと……」
胃の辺りを押さえるように支部長は呻いた。
「まあ、白磁じゃないだけましでしょう。幸い、生き残りの娘さんが推薦と小鬼退治の依頼という形にしてくれたので、人喰鬼討伐も合わせて、強引ですが黒曜にできましたし、彼の腕ならばすぐにでも駆け出しから上がれるでしょう」
当初、当然ながら白磁等級スタートだったはずの侍を、黒曜等級にスピード昇格させたのは、人喰鬼を単独で討伐出来るような凄腕を最下位で燻らせておきたくないというギルド側の思惑が多分に反映された結果であった。
幸いに生存者である村長の娘が小鬼討伐を依頼した形にしてくれたので、後出しではあるが依頼達成とみなす事が出来る。推薦状も書いてくれていたので、人品と信用は最低限担保されている。
後は人喰鬼討伐を依頼達成としてカウントすることで、黒曜等級への昇格条件は整えた。
無論、人喰鬼討伐なんて危険な依頼が早々あるわけがないが、現地においてギルド職員が侍の参戦を要請したことをもって、ギルドからの討伐依頼を受注したとみなすことにしたのだ。
「うむ、確かにな。それでも、しばらく駆け出し扱いは避けられないというのが、本当に嫌なのだが」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク