ハーメルン
21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!
32.ヒスイさんが猫を愛でるだけの話
寿司屋から帰ると、荷物が届いていた。
これが猫型ペットロボットかな、と伝票を確認しようとした瞬間、横からヒスイさんが荷物をかっさらっていった。
そして、ヒスイさんは素早い動きで梱包を開いていく。
綺麗な箱から出てきたのは、羽の生えた白猫だった。……羽?
「ヒスイさん、こいつなんか羽生えてね?」
「スペースエンゼル種ですね」
「何それ……」
「無重力空間での移動を容易にするために、宇宙暦21年に品種改良して作られたターキッシュアンゴラ系の品種です。この子は、そのスペースエンゼル種をペットロボットとして完全再現しているようです」
その品種改良、遺伝子改造の類だろ絶対……。
ともあれ、ヒスイさんはこの品種に満足したようで、とろけるような笑顔で眠ったままの猫型ペットロボットを見つめている。
……じっと見つめたままだな。
「起動してから眺めようよ、ヒスイさん」
「初期設定を行なっていました。もう起きますよ」
ヒスイさんがそう言うと、猫はぱちりと目を開けて、ゆっくりとその身を起こした。可愛い盛りの子猫ではなく、大人の猫って感じの大きさだな。
「はああ、いいですね。いいですね。おはようございます。はじめまして」
うーん、ヒスイさんが壊れた。
と、そこで部屋の呼び鈴が鳴った。この音は、荷物が届いた音だ。
この時代の宅配は全てロボットによって行なわれている。アーコロジーの住居には宅配ボックス的な物が設置されているため、受け取り主はわざわざ玄関先に出て、サインをして荷物を受け取る、という手順を踏まなくて済む。着払いも、届く前に電子マネーであるクレジットで支払える。
「ヨシムネ様、荷物を取ってきてください」
「ヒスイさん、早速、猫にご執心だね……」
いつもなら届いた荷物はヒスイさんが率先して取りにいくのだが、今は忙しいってことだな。
俺は失笑を隠しながら、玄関へと向かう。宅配ロボットがわざわざ部屋の中に荷物を運んできていないということは、重たい荷物や壊れ物ではないということだろう。
玄関の荷物入れには、いつも見る箱が置かれていた。この時代、荷物を入れる箱はダンボールじゃないんだよな。謎の防水素材である。
その箱を俺はヒスイさんのもとへと運んだ。
自由に動き回る猫を見つめるヒスイさんの横に箱を置き、伝票を確認する。
「んーと、猫の玩具」
「はい。開封してください」
「……かしこまりー」
今のヒスイさんには逆らわない方がいいな。
箱についたボタンを押して開封すると、中にはさまざまな猫の玩具の箱が詰まっていた。
「えーと、蹴りぐるみに猫じゃらし、ボールにネズミロボット……21世紀と発想が変わってないな」
一つ一つ開封していって、ヒスイさんの横に並べていく。すると、ヒスイさんは釣り竿の先にふさふさのルアーのような物体がついた玩具を手に取り、猫の前に垂らし始めた。
ぴょんぴょんとルアーを動かすヒスイさん。だが、猫は視線を向けるだけで、それ以上の反応はしない。
尻尾がゆっくりと揺れているので何かしらの興味はあるようだ。しかし、ヒスイさんはすぐにルアーを動かすのをやめてしまった。
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