ハーメルン
21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!
72.未来のお盆<1>
「港で花火大会がありますので、是非来てくださいね!」
そんなことを部屋に来るなり言い出したのは、ヨコハマ・アーコロジー観光大使のハマコちゃんだ。
なんでも、ヨコハマ内の名士のもとを挨拶回りしている最中なのだという。その名士って俺も含まれるの? 別にヨコハマ内で何かの地位についた記憶はないのだが。
「花火大会か。夏らしいな。天井のあるアーコロジーで花火が見られるとは思っていなかったが」
俺がそう言うと、ハマコちゃんがにっこりと笑って言葉を返してくる。
「海のあるヨコハマ・アーコロジーの特権ですね! あと、お祭りも一緒に開催されますので、どうぞ一日楽しんでいってください」
海の付近はアーコロジーの天井がなく、空が見えるのだ。
「夏祭りかぁ。なんの祭り?」
俺がそんなことを聞き返すと、ハマコちゃんはきょとんとした顔になった。
「お祭りはお祭りですが?」
「いや、ほら、神社の例大祭とかあるだろ?」
「宗教的なお祭りではないですねー。夏の風物詩、ヨコハマ・アーコロジー行政区主催の夏祭りです。盆踊りとかもありますよ」
「盆祭りじゃねーか。お盆って宗教的な風習だろ。普通に盆祭りが開催されているのか。意外だな」
科学信仰がいきすぎたこの時代では、宗教色を嫌う人は多いようなのだが。
俺の言葉に、ハマコちゃんは何かを考え込むようにして答えた。
「お盆……お盆……ああ、祖先の霊をまつる風習ですか。そういうのじゃないですよ。盆踊りはただそういう踊りが、現代まで残っているというだけです」
「そうなのか」
「だって、300年前に生きていた人が、今もソウルサーバで存在し続けているんですよ。祖先をまつるなら、ソウルサーバを拝めばいいんですよ」
うーん、このオカルトだかSFだか判らない死生観よ。
未来の文明は、今日も元気にサイエンス・ファンタジーしていやがるな。
「この分じゃ、クリスマスも宗教色抜いて祝っていそうだな」
「惑星テラの冬至を祝うお祭り扱いですね!」
「宗教色抜きすぎて原典に返ってやがる……!」
クリスマスは確か、他の宗教が冬至を祝っていたのを後から乗っ取った形の祝祭だったはずだ。
「MMOでは時節のイベントは定番ですから、クリスマスもハロウィンも扱いますよ」
そんな補足をヒスイさんが入れてくれる。
確かに21世紀にいた頃も、日本のネトゲがなぜかイースターとか祝っていたな!
そのイベント好きな風習、今も続いているのかよ。この時代にもイースターが扱われるとしたら、春分を祝う謎の卵のお祭りとかになるのかね。
「宇宙時代なのに、惑星テラの季節が基準なんだな」
「そもそも一年という単位が惑星テラ基準ですからね」
俺の言葉に、ヒスイさんがそう説明を入れてくれる。なるほど、今の宇宙文明の中心は惑星テラってことか。
そんな無駄話を繰り広げたあと、ハマコちゃんは「次の訪問先に向かうので」と退出を切り出してきた。
「それじゃあ、15日ですからね! 撮影許可を出しますので、ライブ配信でもしちゃってください」
席から立ち上がりながら、ハマコちゃんがそんなことを言う。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/5
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク