ゼートゥーアの評価
ヴェルナーは士官学校においても学業に励みつつも、RFW社における業務や帝国だけでなく各国の政財界とのコネ作りの為にパーティーや交流会へ出席するなど、非常に多忙であった。
しかし、それでも彼は首席を維持し続け、そして首席で卒業し、そのまま軍大学――それも最難関とされる参謀課程へと進んだ。
半数以上が落第するというこの課程においても、彼は二足の草鞋を履いた状態で落第することなく首席で卒業した。
この時点で彼の名前は軍内部――もともとRFW社の経営者としては広く知られていたのだが――にて広く知られることとなった。
参謀課程を兼業で首席卒業する人物は帝国の歴史上、ヴェルナー以外にいなかったが為、この実績でもって、彼は軍人としても優秀であると示してみせたのだ。
なお、彼のドクトリンは士官学校時代にゼートゥーアから参謀本部へ送付され、そのまま参謀本部内で検討された。
その結果、軍大学入学と共に参謀本部へと少尉待遇で赴き、研究及び問題点の洗い出しと改善をすることとなった。
これらもまた前世と同じ道筋であり、自身のドクトリンの問題点とその改善策は熟知しており、将官達や佐官達への説明する為のプレゼンテーションも慣れたものだ。
この頃からお伽噺に出てくる何でもできてしまうという意味合いで、魔法使いの渾名が彼についた。
周りから見れば軍大学に通いながら、参謀本部で自身が提唱したドクトリンの研究をしつつ、将官達や佐官達にプレゼンし、さらには会社の業務までこなす。
それでいて睡眠と入浴、食事に充てる時間はきっちり確保している。
まさしく魔法使いの所業だった。
そして、軍大学卒業後、どこもヴェルナーを欲しがった。
特に兵站部門を統括する陸軍兵站本部は本部長である大佐がやってきて勧誘する程だ。
ヴェルナーの士官学校卒業論文と軍大学卒業論文はどちらも、勇ましい戦術論ではない。
入学初日にゼートゥーアに渡したドクトリンに関する論文だけで士官学校の卒業論文とするには十分過ぎたが、それでは公平ではないとヴェルナーは固辞し、改めて論文を執筆したのだ。
ヴェルナーの士官学校卒業論文は『鉄道・車両・航空機・船舶による統合兵站体制構築及びその効率的運用』であり、軍大学卒業論文は『三軍体制の構築及び統合的運用』だ。
陸軍の枠すらも飛び越えたこれらは陸軍から海軍にも論文の複写が渡され、ヴェルナーのこれまでの実績もあいまって、大きな衝撃を与えた。
当然だが、ヴェルナーは海軍内でもよく知られていた。
彼の名前が海軍内で知られるようになったのは、彼が前世と同じ行動をしたことによるものだ。
RFW社は自動車部門と航空機部門が軌道に乗ると、同じように造船部門にも手を広げている。
エムデン市にあるノルトーゼヴェルケの経営状況が悪化しつつあったところをヴェルナーが資金援助することで救済し、RFW社の造船部門としてそっくり取り込んでいた。
それからは海軍にRFW社の経営者として出入りし、人脈作りに励んでいたのだ。
このように、衝撃を振りまいたヴェルナーが希望した配属先は戦闘部隊ではなく、陸軍兵站本部だった。
本部長直々の勧誘などなくとも、彼はここを希望するつもりだったのだ。
そして、彼は自分の希望通りに兵站本部に配属されるや否や、生き生きと仕事に取り組み始めた。
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