ターニャの確信 おっさん達の後悔
間違いなく、自分以外にも転生者がいる――
ターニャ・デグレチャフは士官学校の図書室で確信していた。
WW2どころかWW1すら未経験であるのに、帝国と帝国軍がおかしい。
孤児院で、特に不自由することもなく生活していたが、魔導師としての適性があることから、戦時に徴募されるよりは平時のうちに志願した方がいい、と判断して飛び込んだ士官学校。
そこで学び、判明したのが帝国と帝国軍の状況だ。
帝国陸軍の主力戦車は四号戦車。
しかし、それはどう見てもターニャが知る史実の四号戦車ではない。
四号戦車は性能的には史実におけるティーガーⅡに相当するものであった。
信頼性とか整備性とか走行性能とか値段とかが気になった彼女は調べたが、危惧された問題点は出てこなかった。
大馬力の航空機用空冷星型エンジンを適切にデチューンしたものを搭載しているのが幸いしているのだろう。
車高は高くなっていたが、重量に対してエンジンが非力で、動かす度に故障が頻発するという史実のような最悪の事態は避けられる。
また長年の自動車開発及び製造により得られた技術的経験や諸国よりも高い工業技術を存分に活かし、信頼性、整備性、量産性も優れ、更には走行性能も重量が55トン程度とティーガーⅡよりも大きく抑えられている為、特に問題はないようだ。
単価も当然高いが、量産効果で値段は下がっているらしい。
全ての装甲師団に主力として配備しつつある、という記載があり、切り札とかそういうものでもなんでもないことが判明してしまった。
「史実の同時期どころか、WW2期とも比べ物にならないほど、遥かに強化された工業力と経済力、技術力を備えている。でなければティーガーⅡみたいなものを問題なく量産配備し、運用できるわけがない」
ターニャはそこで言葉を区切り、一呼吸を置いて、更に続ける。
「更にベネルクスやデンマークの領土や植民地も加えた上、魔法があって大ドイツ主義が実現したのに、何故かホーエンツォレルン家が主導権を握っているのが帝国」
ターニャは口に出して、とてもしっくりきた。
そして、歓喜した。
最初こそ、自身の境遇に絶望しかけたものだが、何だ、蓋を開けてみれば全然大したことがないではないか!
帝国が周辺国と潜在的な領土問題を抱え、東にはアカがいる?
だから、どうした?
東部国境地帯には隙間なく、史実のクルスクにおけるソ連軍並の防御陣地か、それを超えるものが無数に構築されているぞ?
東部程ではないが、西部も北部も南部にも、至るところに。
敵軍が突っ込んできたら、一瞬で部隊ごと溶けるだろう!
「空軍もおかしい……いや、空軍が一番おかしいだろう」
ターニャは机の上に広げた空軍に関する資料本を見る。
空軍の戦闘機や爆撃機、近接支援機、輸送機に偵察機や練習機に至るまで網羅しているものだ。
「私は問いたい」
何で1923年に空冷液冷問わず、ターボチャージャーもしくはスーパーチャージャー付き1500馬力から1800馬力クラスのエンジンを搭載したレシプロ機が配備されているんだ――?
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク