彼らは予想外の事実を知る。
「おはよう黛!」
朝のホームルーム前、須藤がにこやかな笑顔で教室に入ってきた。
そして登校するや否や真っ先に柚椰の所に行き、先の挨拶をかました。
須藤のその爽やかな朝の挨拶に教室の空気が凍った。
理由は二つある。
一つは現在時刻。
今の時刻は午前7時50分。
いつも遅刻か、或いは始業ギリギリに教室に駆け込んでくることが日常茶飯事だった須藤にとって今の時間はあまりに早かった。
余裕を持って登校してくる須藤の姿は、それだけで周りを驚愕させるのに十分だったのだ。
そして二つ目の理由、それは笑顔だ。
いつも眉間に皺を寄せ、話しかけようものなら誰彼構わず睨みつけていた須藤。
唯一マトモに会話が出来るのは池と山内くらいのものだった。
その2人に対してでさえ、須藤は笑顔を見せたことなどない。
つまりクラスの誰一人として見たことのない満面の笑みで挨拶をする須藤の姿。
それは彼が早く登校してきたということ以上にクラスメイトを唖然とさせた。
決して彼の笑顔が素敵だったとか、見惚れていたとかそんなことは一切ない。
単純に気味が悪い、気持ち悪いといった感情からの戸惑いが酷いことになっているのだ。
しかし彼に挨拶をされた本人である柚椰はニコリと笑っていた。
「やあ、おはよう。君がこんなに早く来るのは初めてじゃないかな?」
「ったりめーよ! 今日から本気で勉強すんだからな。気合い十分だぜ!」
須藤のその言葉に周りで聞いていたクラスメイトは騒然とした。
彼から勉強という単語が出てくることが信じられないとでも言いたげに皆一様にポカンとしている。
「やる気があるのは感心だね。とりあえず昨日言ったように、授業は寝ないでちゃんと受けるんだよ?」
「分かってるって、寝そうになったら腕でも抓ってどうにかするからよ!」
「よし、なら午前中の授業ちゃんと受けて、復習もしっかり出来たら昼は好きなものを食べていいよ」
「マジで? っしゃ! 俺、牛丼大盛りだからな! お代わりもさせろ!」
「はいはい、昨日とは正反対なくらい遠慮がないね。いいよ」
「へへっ、約束だからな!」
須藤は柚椰から言質を取ると、上機嫌で自分の席へ戻っていった。
それと入れ替わるように、今度は池と山内が柚椰の所に駆け込んでくる。
「お、おおおおおい黛! なんだよ今の!?」
「なんだ須藤のあの笑顔は!? 気持ち悪ぃっつーか、とにかく不気味なんだが!?」
「俺も気になるな。黛、一体何をしたんだ?」
「私も気になるわね」
「私も私もっ!」
いつの間にか傍にいた綾小路も、須藤の別人とも言える変化について聞きたいようだ。
堀北も同じ気持ちなのか、彼女もまたいつの間にか近くまで来ていた。
そして柚椰の隣の席でずっと事の成り行きを見ていた櫛田も、須藤の変化が気になって仕方ないらしい。
取り囲まれて詰め寄られながらも柚椰はカラカラと笑う。
「別に大したことはしていないよ。勉強をするならそれ以外は面倒を見てやると言っただけさ」
「それって、さっき須藤君が言ってた牛丼大盛りってやつ?」
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