ハーメルン
ようこそ人間讃歌の楽園へ
彼は学校について思考する。


 嬉しそうに笑う柚椰に対して、櫛田はやや複雑そうだ。
 本当に嬉しくないのかと聞かれれば嘘になるが、先の一幕が思いの外尾を引いているらしい。

「そう言わないでほしいな。知り合いが同じクラスの方がお互い何かと安心だろう?」

「まぁそりゃそうかもだけど……」

 柚椰の言っていることも理解できるのか、櫛田は先ほどよりはマシな表情になった。

「大丈夫だよ、君の友達作りには俺も協力するから」

「協力って?」

 満面の笑みで語る柚椰に櫛田は果てしなく嫌な予感がしていた。
 そしてその予感はすぐさま的中することとなる。



「勿論、さっきの櫛田武勇伝を俺が語り部として披露するに決まっているだろう?」

「絶ッ対ダメだからねっ!?」

 とんでもないことを言ってのけた柚椰に櫛田は全力でツッコミを入れた。



「え、ダメなのかい?」

「ダメに決まってるでしょそんなの! 恥ずかしいから! 大体櫛田武勇伝の語り部ってなにさ! ヤンキーの喧嘩エピソードじゃないんだよ!?」

「琵琶は弾けないから琵琶法師にはなれないけどギターなら出来るよ? さしずめギター法師だ」

「ギター法師にもならなくていいから! ありがたい教えでもなんでもないよ!」

「俺は皆に君がいかに素晴らしい人かってことを知ってほしいんだけど」

「その気持ちは嬉しいけどやり方考えて! とにかく絶ッ対やらないでね!?」

 怒涛のツッコミラッシュに疲れたのか、櫛田はそこでドッと深いため息をついた。
 そして自分は、もしかしたらとんでもなく疲れる人と知り合いになってしまったのではないかと若干後悔していた。

「さて、くだらない冗談はさておいていい加減教室に行こうか。いつまでもここにいたら周りの迷惑になってしまうからね」

「だから誰の所為だと思ってるのかな!?」

 これから先の学園生活に一抹の不安が過ぎる櫛田であった。





「1-D、1-D……っと、ここだね」

「はぁ……もう疲れた……疲れたよぉ……」

 教室のドアの上にかけられているプレートから、二人は無事に自分たちの教室を探し当てた。
 櫛田は柚椰の2、3歩後ろをトボトボとついて歩いていた。
 その姿はまさに疲労困憊といった様子。
 朝っぱらから美少女がうな垂れているのは嫌でも周りからの視線を集めていた。

「なぁあの子可愛くね?」

「だな。胸デケー」

「一緒にいる男誰だよ……まさか彼氏!?」

「ねぇ、あの男子超かっこよくない!?」

「でも女の子といるよ? 彼女かなぁ?」

 廊下にいた生徒たちは柚椰と櫛田を遠目から見てヒソヒソと話をしていた。
 入学初日から男女が一緒に歩いてきたのだ。
 しかもお互い美男美女ときた。
 思春期の少年少女にとってこれほど話のネタにこまるものはない。
 既に二人の関係を探ろうとする者までいる始末だった。





「えっと、俺の席は、っと……」

 柚椰は先に教室に入ると中をぐるりと見回し、自分の名前が書かれたプレートが置かれている席を探していた。

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