彼は同窓の徒を分析する。
髪を真っ赤に染めた、いかにも不良のような男だ。
「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇ、やりたい奴だけやってろ」
赤髪の男は喧嘩腰で平田に食って掛かった。
「僕に強制する権利はない。でもクラスで仲良くしようとすることは決して悪いことじゃないと思うよ。もし不愉快な思いをさせたのなら謝るよ」
相手をまっすぐ見つめて頭を下げる平田の姿を見て、一部の女子は赤髪の男を睨みつけた。
「自己紹介くらいいいじゃない」
「そうよそうよ」
「(同調圧力。とりわけ女性は時に個よりも輪を重視する傾向がある)」
平田が既に女子生徒に好意的に見られていることもあってか、大半の女子生徒は彼に味方したようだ。
そしてこれこそが同調圧力。
『平田がそう言っているのだからお前もやるべきだ』という考えが教室内に蔓延している。
一人がそれを表に出したことで一人、また一人とそれに同意するかのように、皆揃って赤髪の男を敵のように見る。
赤髪の言うように、やりたい奴だけやればいいという考え。
それは男女問わず一部の生徒は持っているだろう。
しかし、残念ながらそれはこの状況においてはマイノリティだ。
わざわざここで赤髪に味方するような行動を取るメリットはない。
長いものには巻かれろとはよく言ったもので、多数派に流されていれば波風立たずにすむからだ。
世界からいじめがなくならない理由も実のところこれに起因する。
声の大きな者、集団の中心に位置する者がいじめを肯定する姿勢をとった場合、多くの者はそれに流されることがままある。
なぜならば、反対すれば自身がそのターゲットになる危険性を秘めているからだ。
中心人物が『アイツが嫌いだ』と言えば、『自分も嫌いだ』『自分も実は前から嫌いだった』とそれに追従するような行動をとる。
たとえその中心人物が気に食わない奴だったとしても、集団の輪を崩さないために友好的な姿勢をとる。
個よりも輪、少数派の考えよりも多数派の考えへと人は同意しやすい。
「うっせぇ、こっちは別に仲良しごっこしに来たんじゃねぇんだよ」
赤髪の男はそう吐き捨てて席を立った。
同時に言葉を発さないながらも数人の生徒が続くように席を立ち、教室を出て行った。
ほとんどが男子だが中には女子もいた。
「(協調性がない。というよりこれは同調圧力への嫌悪、か)」
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク