彼と無機質少年は策を講ずる。
朝の点呼が終わり、時刻は午前10時。
Dクラスの空気は張り詰めていた。
宣言通り、点呼の時間に柚椰はベースキャンプに戻ってきた。
しかし誰も彼に声をかけることはせず、離れたところで彼を観察していた。
どこか腫れ物に触るような雰囲気で傍観する者。
まだ彼を信じているのか困ったような顔で見つめる者。
そして彼を犯人だと思って睨んでいる者と周囲の反応は様々だった。
周囲がそうしている中、柚椰は再びベースキャンプを離れて何処かへ行こうとしていた。
「黛君、どこに行くんだい?」
形だけでも聞いておこうと思ったのか、平田が思わず尋ねる。
「別にどこでもいいだろう? 適当に時間を潰してくるだけだ」
「っ……」
短く言い残して柚椰はさっさと出て行ってしまった。
演技とはいえ普段の彼とはまるで違う冷たさに平田は息を呑む。
平田に対してそんな態度をとったことで、柚椰を敵視している者はますます眉間に皺を寄せる。
「……」
柚椰を疑っている者、軽井沢は去って行く彼の背を睨んでいた。
そんな彼女を、彼女の友人である篠原、佐藤、松下は少し離れたところから見ている。
本来ならば彼女に寄り添い、彼女と同じく柚椰に対して敵意を向けて然るべしだった。
しかし現在、彼女たちは軽井沢から少し離れている。
理由は朝の一幕。軽井沢に対して堀北が突きつけたある事実が起因していた。
Dクラスの女子グループとして存在している二つの派閥。
クラスのリーダー平田の彼女である軽井沢を中心とした派閥とクラスのアイドル的存在である櫛田を中心とした派閥。
入学時からしばらくの間は前者が幅を利かせていた。
目立たない生徒も長いものに巻かれるように、あるいは王の妃という肩書きに怯えるように前者に身を置いた。
しかし時が経つにつれ、というよりはここ数ヶ月で後者が急速に勢力を拡大させていった。
それまで軽井沢の方へ属していた者がこぞって櫛田の方へ乗り換えた。
気がつけば両者の力関係は逆転し、派閥に属す生徒の総数も逆転していた。
その事実を、堀北が皆の前で突きつけたのだ。
女王の玉座は既に崩壊寸前であると。
今まで従えてきた平民は、皆新しい女王へと流れているのだと。
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