ハーメルン
Dead Man Walking《完結》
カインの子、約束の地にて天に召され(4)

 東京の人口が概ね千二百万人として、その千分の一なら一万二千人、万分の一だとしても、千二百人。
 人がオルフェノクに変じる割合など統計は出ていないだろうし、分かりもしない。故に、オルフェノクの総数など推測の付けようがない。
 それだけの数のオルフェノクが息を潜め誰かの隣人となっているという想像もぞっとしないものだったが、デルタへと変じた三原にとっての目下の問題は、十体強のオルフェノクに取り囲まれているこの現実だった。
 次から次に迫り来る攻撃の対応に追われ、巧か啓太郎に連絡をとり助けを呼ぶ余裕も与えられない。里奈の、創才学園の事がひたすら気掛かりだったが、この囲みを突破する事は、相当に困難なように思われた。
 デルタムーバーを構えて幾筋か光弾を放ち、ハリネズミらしき奴を威嚇する。このままではどうにもならない。
 ジェットスライガーは先程呼び出しコードの入力に成功したが、到着する迄には未だ少し時が必要だろう。
 デルタは高出力だが、複数を一気に相手取れるような装備はない。ファイズのような拡張性がなく、追加武装もなかった。
 三原自身も、援護に徹するのが自身の本領という自覚がある。一人だけでこんな数の敵を相手に、上手く立ち回り倒す技量はなかった。だが、例えばファイズの援護に回れたなら、デルタはきっとファイズを守りつつ協力して、多くの敵を倒せるだろう。
 じりじりと、デルタを囲む輪は狭まりつつあった。輪を穿ち脱出すれば背中を狙われる危険があり、ジェットスライガーの到着にはまだ間がある。デルタは動けず、威嚇の為の発砲を続けた。
 このままでは。
 デルタの焦りを見透かしたように、輪が一気に狭まった時、一方のオルフェノクの背中で火花が散った。
「ゴガッ!」
 跳ね飛ばされたオルフェノクがひしゃげた叫びを上げた。オルフェノクの向こう、暗がりには二台のバイクが停車していた。
 赤いバイクには、橙色のスーツに緑の複眼、銀の鎧と仮面を身に付けた戦士が跨り、銃らしき武器を構えている。その隣には、緑のバイクとスーツ、金の鎧に紫の複眼。
「その姿はデルタ……三原くんか?」
 銃を構えた橙色の声に、デルタは聞き覚えがあった。
「その声、橘さんですか!」
 三原の問い掛けに、橙色は力強く頷いて、隣の緑を顧みた。あれが橘ならば、あの姿は壊れていたというギャレン、そしてその隣は、レンゲルという戦士なのだろう。
「よし、行くぞ睦月」
「はい!」
 睦月と呼ばれて歯切れよく返事を返した、恐らくレンゲルは、バイクからひらりと軽やかに降りるや、隙のない動作で錫杖を構え、駆け出した。
 ギャレンもバイクを降り、レンゲルを援護すべく、オルフェノクの群れへと銃撃を放つ。
『Fire』
『Rush』
 二人はそれぞれの武器にカードを滑らせ、効果を告げているのだろう、電子音声が響いた。
 リーチを生かしたレンゲルの打撃と、正確なギャレンの射撃。突然現れ意表を突かれた事もあり、オルフェノクは二人に翻弄され、次第に輪は崩れ散らされていった。
 そこへ、輪を崩したオルフェノクを跳ね飛ばして、ジェットスライガーの巨体が到着した。駆け込んでコクピットに収まると、映し出されたモニターのタッチパネルを操作、オルフェノクを次々ロックオンしていく。
「橘さん達、避けて!」
『Fire』
 叫ぶと、デルタはモニタに表示されたスイッチを押した。ギャレンと、やや遅れてレンゲルが離脱し、後を追い掛けたオルフェノクは、追尾弾の直撃を背中に食らって、青い炎を上げた。

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