第四章 美少女とオーク 中編
2メートル近いベリークですら、見上げなければ顔をうかがうことができない巨体。
山羊のような大きな2本の角を頭部に備え、毛深い表皮を力強い筋肉が押し上げる。
その迫力ある肉体に見劣りしない強力な魔力が全身から溢れ、持ち主の意思に従って炎へと変化し、辺りを煌々と照らしている。
彼がこの迷宮で上位から数えた方が早いであろう実力者であることは、ベリークにもすぐに分かった。
片膝をつき、息を荒らげて山羊魔族を見上げるベリークは、無事である箇所を探す方が難しい程に満身創痍。
三日月刀も、それを握っていた右腕も折れ、頭部からは際限なく血が溢れ出し、腹の肉が一部えぐれ、左足の甲は炭化している。
まさに“絶体絶命”と呼ぶに相応しい有様であった。
にもかかわらず、ベリークの眼だけは死んでいなかった。
彼の眼には強い意思の輝きが宿り、声高に叫んでいた――“ここで死んでなるものか。自分は村で最強の戦士。必ず生きてリリィと添い遂げるのだ”と。
「……そろそろ、この豚で遊ぶのも飽きてきたな……」
「……何?」
巨体の魔族がボソリと呟いた次の瞬間、脂肪で膨らんだベリークの腹に、その毛深い巨腕がめり込んでいた。
血反吐を吐きながら吹き飛んだベリークは、石造りの家に頭から突っ込み、倒壊させる。
ベリークは仰向けに倒れたまま、起き上がることができず、うめき声を上げた。
「ほらよ。動けなくしてやったから、あとはオメエらの好きにしな」
そう重く迫力のある声で山羊魔族が言うと、ばさりとコウモリの翼を広げて飛び立つ魔族がいた。
リリィを襲った単眼の魔族である。
「ありがとうございます! テメエら、コイツは俺が殺る! 手出しすんなよ!」
そう叫ぶと、単眼の魔族は両手をベリークへと向け、彼の身の丈ほどもあろう大きさの魔力弾を作り出してトドメを刺そうとする。
本当ならばもっと甚振ってから殺してやりたかったが、本命は、あの憎たらしい睡魔の小娘だ。あまりダラダラとこの豚を嬲り殺しにしていたら、飽きた山羊魔族が帰ってしまう可能性がある。
一度薬の被害にあった以上、あの小娘は同じ誘いにのらないだろうし、仲間も彼女を1人にすることはないだろう。
友の仇を討つためには、どうしても山羊魔族の力が必要なのだ……再びリリィに薬をかけるための捨て駒として。
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