第五章 好敵手 中編1
「エステル様ッ! 姫様が!!」
迷宮に、焦りに満ちた大声が響く。
迷宮の奥……シルフィーヌ姫がいるはずの方角から、大慌てで兵士がやってきた。
頭に兜、全身に鎧をつけているために分かりづらいが、その声からして女性兵士のようである。
「どうした!?」
リリィの腹部に蹴りを叩き込んで間合いを離しつつ、すぐさまその兵士へと一足飛びに駆け寄るエステル。
蹴られた瞬間に後ろに跳んでダメージを減らしたリリィは、すぐさま体勢を立て直して構えるが、エステルに向かってはこない。
どうやらこの隙に息を整えようとしているらしく、その証拠にエステルが刻んだいくつもの細かい裂傷が見る間に癒えていく。
兵士は焦りながらもリリィに視線をやると、敵に漏らしてはまずい話だと思ったのか、すぐに「恐れながら、耳をお貸しください」とエステルに頼みこむ。
エステルも戦場で……しかも友好国の姫であり、個人的な友人の危機という緊急事態においてまで、礼儀にあれこれ言うような常識知らずではない。すぐにスッと兵士の口元に耳を寄せる。
「――エステル様、離れてぇッ!!」
耳をつんざくようなアーシャの悲鳴。
それを耳にした瞬間、エステルは全力で地を蹴って後ろへ跳ぶ……が、
「ぐっ……!?」
時すでに遅し。
――鎧の隙間を縫うように、エステルの腹からナイフの柄が生えていた
まるで焼き鏝を当てられたかのような灼熱感に堪えつつナイフを引き抜いて投げ捨て、脂汗を流しながらエステルは兵士を睨みつける。
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