第五章 好敵手 中編3
「いいいいいいやあああああああああああっ!! 私、こんなのばっかりいいいいいぃいいいいっ!?」
「ハッハッハ! お嬢ちゃん、本当に足が速いな! まさか、この俺の足についてこれるとは思わなかったぞ!」
「そんなこと言ってる場合ですか!? 後ろ! 後ろからニュルニュルが! グネグネズルズルウゾウゾってええええええっ!!」
陽気に、軽快に走る銀毛の狼獣人の背後に必死に食らいつきつつ、コレットは後ろから追いかけてくる大量の触手から逃げるのに必死であった。
その触手の造形たるや、“捕まったら間違いなく孕まされる”と確信できる卑猥さで、そのあまりのおぞましさに、さっきからコレットの肌には鳥肌が立ちっぱなしである。
本当は視界にすら入れたくないのだが、追いつかれていないか確認せざるを得ないことと、怖いもの見たさのために、“後ろを振り返って見ては後悔し”、を繰り返してしまっている。
「大丈夫だ! 俺についてこれるんなら、アイツは絶対に追いつけん!」
「体力が持ちませんよっ!?」
あんたら獣と同じにするな、とコレットは手足を必死に回転させながら憤る。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、目の前の狼男は終始笑顔だ。
……いや、コレットに狼顔の喜怒哀楽は分からないが、雰囲気で何となく察していた。
――コイツは、コレットが慌てふためいている様子を心底楽しんでいる、と
「もう少し我慢しろよ! もうすぐアイツを撒けるところにつく!」
そう彼が言った後、すぐに曲がり角を曲がった瞬間に現れた光景に、コレットは度肝を抜かれた。
「崖ぇえええええぇえええっ!?」
2人の前に現れたのは、まるで魔神が剣を振るってできたかのような巨大な断崖絶壁。
軽く見積もっても10メートルは有りそうな幅のそれには、パッと見てどこにも橋などかかっておらず、転落死を避けるためにコレットは慌てて急ブレーキをかけようとして――
「止まるな、走れ!」
今まで陽気に話していた彼の、急な厳しい口調に、思わず身体が本能に逆らって前へと飛び出す。
グッと何かがコレットの腰を掴んだと感じた瞬間、
「ひょわああああああああっ!?」
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