第六章 3つの賭け 中編
「この娘に……シルフィーヌに、あなたと交渉するチャンスをあげて欲しい」
「サ、サラディーネ姉様!?」
突然振られた予想外の展開に、シルフィーヌは目を白黒させる。
「交渉ですか? この状況で?」
未だシズクとリウラが戦闘中とはいえ、ティアとシルフィーヌという頭をしっかりと押さえたリリィ達は完全な勝者だ。交渉をするも何も、まず間違いなくリリィ側の要求はほぼ全て通り、逆にシルフィーヌ側の要望は全て跳ね除けられるだろう。
仮にシズクがリウラを押さえたとしても、おそらくティアとリウラを人質交換すれば、それでおしまい。リリィの手元にはシルフィーヌが残る以上、どうしたって交渉はリリィの思い通りに進んでしまう。それが分からないティアではないはずだが……。
「ええ、お願い」
なぜか、彼女は自信ありげにそう言った。いったい彼女が何を考えているのかリリィには分からないが、この状況で何ができるとも思えない。
リリィは面倒くさそうに溜息をつく。
「……わかりました。それで貸し借り無しですよ?」
そう言ってシルフィーヌと向き合うリリィ。
しかし、シルフィーヌもリリィと同様の見解を持っている上に、そもそも彼女は外交関係について多少の知識は有れど、経験はほぼ無きに等しい。
もともと病弱であまり政治の表舞台に立てていなかったところに、魔王との戦いで第一王女を失い、第二王女がゼイドラム王家へ嫁に行った後、すぐに魔王との戦いに身を投じているからだ。
この状況から、何をどう交渉してよいかさっぱりわからず、彼女は途方に暮れた。
「姉様……その、わたくしよりも姉様が交渉した方が……」
「シルフィーヌ……いえ、姫様。今の私は水精ティアであり、ユークリッド第一王女のサラディーネは既に死んでいます。私はユークリッドの手助けはできても、国そのものを動かすことはできません。ユークリッドの代表としてリリィと交渉できるのは、あなたしかいないのです」
「そんな……!?」
「大丈夫、ヒントは既に出揃っています。姫様なら、それに気づけるはずです」
「ヒント……?」
信頼する姉の言葉を信じ、シルフィーヌは必死に今までのリリィとティアのやり取りを思い出す。
(……そういえば、『静かに、穏やかに暮らしたい』って……)
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