第二章 怪盗リウラ 後編
ゴーレムの視界は、そのほとんどが霧で閉ざされている。また、霧自体にリウラの魔力が込められているため、ヴィアやリューナの気配も感じ取ることができない――すなわち、今この瞬間、ゴーレムにとって敵と認識できるのはリウラしかいない。
芝居がかった大仰な振る舞いをするリウラは、ただただ目の前の敵を攻撃するだけの岩人形にとって、これ以上ないほど分かりやすい敵であることもあり、ゴーレムは先程からリウラばかりを狙っていた。
肩を引いて思いきり左拳を振りかぶったゴーレムは、躊躇なく空中の水精へ向かって拳を振り抜く。しかし……
バッ!
大砲の弾のように迫る鋼鉄の巨拳が貫いたのは、半透明のマントだけだった。
拳を引いたところには何もいない。
手応えがないことに違和感を覚えたのか、ゴーレムがキョロキョロと頭部を動かしてリウラを探す。
「こちらですよ。ゴーレムのお兄さん?」
――声が聞こえたのは背後
ゴーレムはグルリと振り返る。
そこにいたのは傷ひとつないタキシード姿の水精。傷つけたはずの水マントすら、きちんと身に着けている。
知性ある生物であるならば、この時点でリウラを警戒することができただろう。だが、鉄の巨人にはそれを判断できる頭が無かった。
多少のことは精霊が判断できる。あいまいな命令であろうとも理解してくれる。
だが、命令に無いことは判断も実行もできない。なぜなら、精霊の思考を縛るということは、作成者が想定していない状況を思考・判断させることができないということだからだ。
ゴーレムはまるで幻を相手にするかのように、リウラに拳を、剣を愚直に振り続ける。
「……器用なことするわね」
あきれたように、ヴィアは零す。
濃密な霧で覆われた視界の中、彼女はその獣さながらの視力でもって、リウラが次から次へと行う一連のパフォーマンスを、かろうじて目で追うことができていた。
リウラが自分の背中に回した右手に水が生み出され、瞬時にもう一枚の水のマントを創り上げる。
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