それぞれにとっての聖歌者 Ⅱ
第9.5話 ギィ・クリムゾンの場合②
「あん?」
ギィは、そこで不思議そうに首を傾げた。
遠目であるが故、確信はないが……悪魔の目が変わった。両目とも、白目部分が黒く染まり、真っ赤な瞳であったはずが、片目だけ、青い宝石のような瞳へ戻っている。
ラフィエル=スノウホワイト本人が、覚醒している?
いや、そうであれば既にもう片方の瞳は戻っているはず。つまり、半覚醒ということか?
ギィはそう思考して、悩む。
このまま気付かないふりをして戦闘を楽しむか、ラフィエル=スノウホワイトの意思を引き出すか。
正直、前者を選びたい。
が、ここで前者を選んだ場合、後々ミリムやラミリスの機嫌が底辺に落ち、わざわざご機嫌伺いをしなければいけない。それは面倒臭い。
ギィは溜息を吐き、仕方無しに後者を選ぼうとした。
「……?」
ラフィエル=スノウホワイトと目が合った。何かを必死に訴えているかのような。悪魔の目は憎々しげで、ギィを睨んでいる。
一体何だと言うのか。ギィは首を傾げてその意図を考え……それに思い当たった。
その目が、熱烈に訴えているのだ。
やめろ、と。
後者を選ぶのを止めろ。
そう訴えているのが理解できた。あのラフィエル=スノウホワイトが? 自分の勘違いかと、再度その瞳を見ても、答えは変わらなかった。
歓喜が沸き起こる。ラフィエル=スノウホワイト公認で、戦える。
なら、もう躊躇など必要ない。
ギィは凶悪に口元を歪めると、鬱陶しそうな顔で虚空を手で払う仕草をする悪魔の前へ降り立ち、
「本人公認だし、そろそろ本気でやってくれや。なあ、同胞クン?」
なんて挑発をしてみせた。
眉を寄せ、悪魔はギィを睨む。その動作は、どこかぎこちない。恐らくだが、ラフィエル=スノウホワイトが何かしらの妨害を行っているのだろうと当たりをつける。
そのおかげで逃げようとしないのだろうと分かっているので、ギィは余計な事するなという文句を飲み込んだ。
「……邪魔だ」
悪魔は、不快げに呟く。
その身体から、赤黒い霧が吹き出した。それは液体へと変化し、固形化する。鋭く先の尖った、無数の棒へと変化した。
その正体は、ラフィエル=スノウホワイト……あるいは悪魔の身体を循環する血液である。
血液を自在に操る、悪魔由来の攻撃法。無論、異世界の、とは付くが。
棒状の血液は、ギィに襲いかかる。何かに気を取られているのか、それは単調な攻撃で避けるのは簡単な事だった。
「おいおい、本気でって言ってるだろ?」
「黙れ。……失せろ」
何となく、ギィは「失せろ」の言葉はラフィエル=スノウホワイトに向けられた気がした。あくまで気がしただけだが、ギィはその直感を信じた。
「こっち見ろよ」
今、戦ってるのは俺だと、ギィは悪魔に殴りかかる。悪魔は血液を固めて防御し、自身は下がって血の盾が壊れても怪我をしないようにした。
ピクリとギィが訝しげに眉を上げる。
先程まではユニークスキル『拒絶者』で防御していたのに、何故? さっきから、『死歌者』も使わない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク