悪魔共存/誤解だ、オレじゃない
第3.5話 悪魔共存
ラフィエル=スノウホワイトは聖歌者である。悪魔を殺す歌を奏でる、正真正銘の悪魔殺し。それがかの少年――否、少女である。
そして、彼女がこの世界へと界渡りをしてしまった要因はあの悪魔。大量の悪魔を引き連れて都へ降り立った絶対悪。
彼が彼女となった原因もあの悪魔である。魂同士の喰らい合い。それはお互いを融合させあうとも意味する事が出来る。つまりは――彼らの戦いは、引き分けになったのだ。
故に、完全な融合は避けたい悪魔。彼は契約を持ちかけた。悪魔契約――それは、聖歌隊にとっては不快極まりない提案である。
しかし、相手は聖歌者ラフィエル=スノウホワイト……都の彼らの命を引き合いに出せば、簡単に頷いた愚かな人間。
そして、契約は完了する。
基本的には、その身体の支配権はラフィエル=スノウホワイトにある。けれど……彼女が危険に陥れば、その身体の支配権は悪魔へと移る。そして悪魔が満足するまでの間、永遠に破壊と恐怖を撒き散らすのだ。
――これは、そんな悪魔に身体を乗っ取られてしまった、哀れな少女の物語。
後に病弱の聖女と呼ばれ敬愛され、あるいは微睡みの暴虐者と畏怖される、憐れな少女の物語である。
ラフィエル=スノウホワイトはその日、とある国を訪れていた。数ヶ月前に"暴風竜"ヴェルドラによる襲撃を受けていた国である。それを彼女が救った。
国民は、歌う彼女の姿を見て感涙し、命を救った彼女に多大な感謝を捧げた。しかし彼女は決して傲慢にならず、柔和な笑みで告げたのだ。
「無事でよかった」
ああ、なんと美しく優しい聖女様!
それはもう、国民は彼女に心酔した。国を救い、自らも忙しなく働き一人でも多くの命を救おうと奔走してくれる旅人の少女。聖女以外の呼び名など考えられない。
何時までもこの国に居てくれればいいのに……。
けれど、その願いは叶わない。
聖女の人気により、支持率を低くした王族の張った罠によって。彼女は命の危険に晒された。
そして王族は告げた。
――あの魔女は、自ら暴風竜を呼び込み、自分が英雄になるためだけに、我が国を危険に晒したのだ。
国民は混乱した。けれど、納得もした。
あの常識が通じない理不尽の仮名詞たる暴風竜を、いくら何でも歌だけで追い返せるだろうか?
否、否、否である!
そして感謝は憎悪となり、彼女を襲う。
聖女ではなく、魔女として祀り上げられ、彼女は磔の刑に処された。石を投げつけられたり、謂れのない暴言を浴びせられたり……。
そして、ついには火にかけられた。
そして彼女は。
彼女は目を閉じたまま動かなくなり。
動かない。動かない。動かない。もう二度と動くことはない。
ああ、魔女は死んだのだ!
しかし、そうは問屋が卸さない。
悪魔は契約を遵守する。
たとえ破壊を、暴力を好んでいても。残虐で凶悪な悪魔であっても、異世界であっても。
悪魔と交わした契約は、破られることなど……ない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク