ハーメルン
天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。
三巻初版の口絵では薙沢“匠”磨だったじゃんお前

 作戦始まったと思ったら、俺と彰磨ペア以外全滅してて草。



 ■



 生ぬるい潮風に混ざった、吐き気を催す濃密な血臭。海辺の街には死体の山が築かれた。

 血の匂いを纏う燕尾服の死神は、高序列の民警たちの奇襲を受けてなお、傷一つ負っていない。
 対するこちらの戦力は三人。

 作戦が失敗した今、俺たちに出来ることは少ない。逃げ切ることなど不可能。
 今この場で決着をつける。それしかないのだ。

「ケースはどこだ、蛭子影胤」

「君は確か……薙沢彰磨君だったかな? 初めて会った時にそう名乗っていたね」

「…………そうだっけ?」

「紅蓮、どういう事だ。俺は奴と会った覚えは無いぞ」

「………………………………………………ケースはどこだ、蛭子影胤」

 もう一度語気を強めて問い詰めると、やれやれと言った様子で影胤は肩をすくめた。まったく、悪趣味な野郎だ。

「ケースなどもう無意味だよ。私たちにできることは全て終えた。ステージⅤガストレアはじき現れるだろう。あとは時を待つだけさ」

「だからケースはどこだっつってんだよ仮面の奥は空っぽかテメェは。中身ぶち壊して儀式とやらも中断だ」

「不可能だよ。なぜなら、私たちが立ちはだかっている」

二挺拳銃を構えた影胤は凄絶に嗤う。

「私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止めることは出来ない」



 ■



 午前四時。

 天童紅蓮、薙沢彰磨、布施翠の三名と蛭子ペアの対峙は日本国家安全保障会議でリアルタイムで見守られていた。

 つい先ほど、彼らを除いた二十八名の民警ペアが僅か数分で虐殺される様を見せつけられたばかりである。会議室は諦めに近い静けさに包まれていた。

「現在、付近に他の民警は?」

「は、一番近くにいる民警だと十五分程で到着するかと。彼ら以外となると一時間以上はかかると思われます」

「その民警は誰です」

「里見ペアと天童紅蓮のイニシエーター、千寿夏世です」

 聖天子に視線を向けられていた防衛大臣は額の汗をハンカチで拭った。

 次に菊之丞を見る。

「菊之丞さん、彼らの勝率は如何ほどと見ますか」

 菊之丞はモニターに映る息子を一瞥すると、小さく首を振った。

「二年前、天童を出る前の力量を考えれば十五パーセント程かと。当時から蛭子影胤にも引けを取らない技術がありましたが……如何せん相性が悪い」

 序列元五百五十位の天童紅蓮の戦闘スタイルは天童式戦闘術を用いた前衛。彼のパトロンである『司馬重工』からいくつかの武器類を持たされてはいるようだが、これも影胤の繰り出す斥力フィールドに効き目があるとは思えない。
 序列千番台の薙沢彰磨も似たようなスタイルで、彼のイニシエーターである布施翠はモデル・キャットのイニシエーター。
 いずれも影胤の装甲を破れるようなパワータイプではなかった。

「だが、それでも──」



 ■



 目の前にいるのは、圧倒的な力を持った機械化兵士とイニシエーター。それがどうした。ここで奴らをどうにかしなければ、東京エリアは滅亡する。見ず知らずの国民たちがどうなろうと俺には関係の無い話だが、蓮太郎が、木更が命を落とすかもしれない。俺にとってはそれが全てだ。

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