ハーメルン
DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.
There Is a Light That Never Goes Out 3

 警察署を脱出した二人は、小雨の中を歩きながら話し合う。


「それで、何か見つかったんですか?」

「四件ヒットした。全部印刷したが、どれもこれもイタリア語だ。全く読めねぇ、辞典を買うぞ」

「イタリア語? じゃあ、イタリアの事件ですか?」

「多分、そうだ。指紋は見つかっているが、何者かまでは特定されていなかった。その正体が、今回の通り魔の可能性があるな」


 目の上に手を添え、視界を雨から守りながら、ロックは質問する。
 すぐ隣では甲高いエンジン音を立てる車が往来していた。自然と、叫ぶような声になる。


「あの、マクレーンさん!」

「なんだ!?」

「今朝に起きたって言う、襲撃事件ですけど! マクレーンさん多分、当事者ですよね!?」

「じゃなきゃ指紋の付いたグラスを持っていねぇからなぁ!」

「では見たんですね!? 通り魔の正体を!」

「………………」


 マクレーンはまず答えない。
 少し歩いた所に路地があり、静かなそこで声量を落としてから答えてくれた。


「……見た」

「どんな人物だったんですか?」

「……俺からは言ってやらねぇ。いずれ、バラライカらが流すだろが」

「もしかしてですけど、知り合い……いや、それなら指紋の照合はしない。子どもですか?」


 図星だ。
 ピンで言い当てたロックに驚き、マクレーンは足を止めて振り返る。


「……なんでそう思った?」

「マクレーンさんの入れ込み具合から、そうじゃないかなと。犯行と見た目が合わない相手だから、バラライカさんたちより先に掴もうとしていると、考えまして」

「……知ったような口じゃねぇか。俺とおめぇはもう、そんな仲だってのか? 去年の夏に抱き合ってバーベキューでもした仲だっけ?」

「こっちは一方的に知っていますよ。何てったって、クリスマスの特番で何度も見たんですから」


 あぁそうだ、こいつ日本人だったと彼は天を仰ぐ。
 とっくに自分の家族構成や経歴は、お茶の間に流出し尽くされていた。

 特にナカトミビルの件は、人質に取られた妻を救う為に奮闘する、愛と正義の美談として語られている。
 自ずとマクレーンが、「家族思いの正義漢だ」と認知させられていた。


「クソッタレ……マスコミの報道が全てって訳じゃねぇっつの」

「特番でありましたよ。お子さんたちも、生中継で出演していましたね。あの映像は当時、見ていたりしますか?」

「いや」

「見ていたら、励みになっていましたか?」

「代わりに生中継を見ていたのはテロリストどもで、ホリーが俺の妻だとバレて人質に取られた。事が終わった後にウチに押し入ったレポーターが妻に殴られていた箇所、どうせカットされてんだろ?」


 衝撃の事実に、ロックは絶句。
 その彼の姿を愉快そうに見届けてから、またマクレーンは歩き出した。


「日本は知らんが、ニューヨークのマスコミどもはこぞって、俺をヒーローに仕立て上げやがる。その癖して、勝手に作った俺のヒーロー像だのに反論だとか批判も飛ばしやがった。やれ危険に晒したとか、やれ恐怖を与えただとか……」

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