1-始動
「カシワさん、今までありがとうございました」
廊下に少女の声が響く。声の主、ルリミゾはマイナーリーグ落ちしたジムの期待を背負う超新星ジムトレーナーだった。
ここガラル地方では、ジムリーダーは16人存在している。上位8人で行われるメジャーリーグと、下位8人で行われるマイナーリーグがあり、日の目を浴びるのはほとんどメジャーリーグの8人だ。ガラル地方で最も強いトレーナーを決する「チャンピオンカップ」の開催後、メジャーリーグの下位2人とマイナーリーグの上位2人の入れ替え戦が行われる。明後日はその入れ替え戦だ。ノーマルタイプのポケモンと心を通わせるカシワは、入れ替え戦に出場するマイナージムリーダーの1人だった。
「どうしたんだルリミゾ、まだ残っていたのか」
唐突な礼に意図が汲み取れない。
ルリミゾはシンオウ地方出身のジムトレーナーだ。彼女がシンオウで培った経験・戦術は、マイナーリーグで低迷していたカシワに大きな変化をもたらし、結果としてカシワはリーグ戦を11勝3敗で終え、2位で入れ替え戦に出場することができた。
練習試合ではなんとか勝ち越せてはいるものの、ほとんどカシワと変わらない実力を持った次期ジムリーダー筆頭候補だ。今日は調整のために手合わせをして、彼女は遅くなる前に帰ったはずだったのだが。
「隠れ蓑としてとっても便利でしたから、そのお礼です」
「そろそろあたしも動こうかなと思って」
「話すのもこれが最後ですし」
続けて放たれる言葉に、ますます理解が追いつかない。
「ボケっとしてないで、この子の目見てください」
少女の手元から出た存在と、目が合った。
「さよなら」
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翌日、ガラル地方の話題は一色だった。
【ジムリーダー、入れ替え戦前日に意識不明で発見される】
マイナーリーグのジムリーダー、カシワがトレーニング施設の廊下で倒れているのが発見された。彼女は意識不明に陥っており、原因は不明だという。入れ替え戦に臨める状況ではなく、話を聞いたルリミゾが代理での出場を委員会に申し出た。顔を涙で濡らしながら訴える姿は多くの人々の記憶に新しいだろう。
委員会は審査の後、ジムトレーナーのルリミゾを代理で出場させることを許可した。彼女がバッジを8つ所有していること、ジム交流戦の成績、その他大会での成績を考慮しての例外処置だという。彼女にとって、カシワはシンオウから越してきた彼女を迎え入れた恩人だっただけにそのショックは計り知れない。
「突然のことで戸惑いを隠せません。本来出場すべきだったカシワさんの名に恥じないようゼンリョクで戦わせていただきます。彼女の意識が1日でも早く戻るよう、戦いで示します。」
と涙を流しながらコメントを残している。
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