第13話 歌姫と歌姫
「ラクス様、やはり貴女でしたか」
「デュランダル議長、お久しぶりでございます」
船から降りてきたプラントの要人、ラクス・クライン。
戦後のプラント最高評議会に復帰し、カナーバ議員らとプラント圏の復旧と立ち直りに尽力し、のちの政権をデュランダルに任せて引退したシーゲル・クラインの娘だ。
もとより面識があったデュランダルは彼女と握手を交わして久々の再会を喜ぶ。呆気に取られているタリアやカガリを他所に、シャトルからは彼女の護衛のほか、〝業務を兼業〟しながら同行している人物も降りてくる。
「やぁ少年たち。元気にしていたかね?」
「はぁい♪元気かしら?」
無重力のハンガーの中へ降り立ってきたのは、サングラスと黄色と黒のネクタイをした男性、アンドリュー・バルトフェルドと、そんな彼の妻となったアイシャ・バルトフェルドだった。
「バルトフェルドさん!アイシャさんも」
キラのメビウス・ストライカーの整備をひと段落させたフレイが、出てきた二人との再会を喜ぶように手を重ね合わせる。カガリやアスランもいるのを確認してから、バルトフェルドは困ったようにいつもの笑みを浮かべた。
「全く参ったものさ。進水式の記念式典で披露する歌姫が、まさかこんな事に巻き込まれるなんてな」
「これは申し訳ない。この艦もとんだことになったものですよ。進水式の前日に、いきなりの実戦を経験せねばならない事態になるとはね」
皮肉の効いたバルトフェルドの言葉と、声の抑揚を変えずに切り返すデュランダル。まだカガリでは到達できない腹のさぐり合いが、その二人の中で展開されようとしていた。
「ちょっとぉ!プロデューサー!置いていかないでよ!」
そんな思考の読み合いに発展しそうな空気を、シャトルからは追うように出てきた少女の声が払拭していき——同時に、アスランやカガリ、フレイの顔を驚愕に染め上げた。
「ラ、ラクスが二人…?」
「はっはっはっ!驚いただろう?デュランダル議長が紹介してくれた逸材でな!!」
隣に降り立った〝ラクスと瓜二つ〟な少女を自慢げに紹介しながら、少女はラクスとは違う人懐っこそうな笑みを浮かべてアスランたちへ挨拶をした。
「ミーア・キャンベルです!よろしくね?」
「ラクスと見た目はそっくりだが、方向性が違ってね。二人でユニットを組んでライブツアー中なのさ」
大戦後、ラクスの行った行為はひとえには褒められたものではない。だが、支持者も多かったことと、結果的にプラントを救った英雄的な側面もあったことから、彼女を政治的な舞台に参加することを禁ずるという条件付きで、ラクスの身は保護される事になった。
その後、護衛兼補佐の役割を任されたバルトフェルドが、芸能界へ声をかけられたことをきっかけにプロデューサーとしてアイシャと共にラクスをサポートするようになり、デュランダルから紹介されたミーアも加わって、今は大戦で傷付いた人々を慰問している。
「アンディもすっかりプロデューサーがハマり役になったわね?」
「もともと、こういう事のほうが性に合っていたからな、私は」
主にメイクや衣装のデザインを担当するアイシャからそう言われて、バルトフェルドはそう答えた。もとより前線に出て戦うより、後ろで計略を練るほうが自分の得意分野だったので、今の立ち位置が天職なのかもしれないとバルトフェルドは思っていた。
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