ハイスクールD×D 万の瞳に映るもの
包装されているビニールを開けてお気に入りのあんパンをかじる。
「はぁ、また手を洗いもせずに」
背後から声をかけられるが聞こえないふりをする。
「聞いてるんでしょう、修。ちゃんと手を洗ってからにしなさいと何度言えばわかるのですか」
「間にビニールがある。直接触っているわけではない」
「そうでしょうけど」
「それより、何の用だソーナ?頼まれている物はまだ完成していないぞ」
「今日は調律の日でもうすぐ時間ですよ。忘れているだろうと思って迎えに来たんですよ」
「もうそんな時間だったか。すまないな。時間だけは誰かに教えてもらわないと分からないものでな」
「知っていますよ。それにしても、何度見ても凄いですね。目が見えていない状態で作ったとは思えない」
「五感の一つを失おうとも、残った感覚がそれを補ってくれる。聴覚と触覚で大体のことがわかるようになる。あとは慣れだ」
道具をまとめて残っていたパンを口に押し込み、エプロンと作業服のツナギを脱ぎ捨てる。無論、下には普通に服を着ている。
「いつもの場所だな?」
「ええ。そうです」
「ありがとう」
作業部屋から修が出て行った。酒井修、10年前にお姉さまが保護した人間の男の子で私の幼馴染で、自ら目を封じた芸術家。何故、目を封じたのか理由を聞いても答えてくれず、常に目を特殊な布で覆っている。芸術者としては色彩を捉えられない絵画以外は万能で、特に音楽と舞踊に長けている。だが、一番評価されているのは彫刻で今も何処かのホテルのロビーに飾るための彫刻を作っている。
目を封じているにもかかわらず、まるで全てを見通していると思われるぐらいに歩く姿に迷いは見えない姿にある種の憧憬を抱いたこともあった。だが一度だけ、寂しそうに、苦しそうに、涙を流している姿も見たことがある。それがとても印象に残っている。そんな修は私と同じ年齢ながらも芸術家としての才能をフルに発揮し、数々の賞や名声を得ている。人間界の方に持ち込んでもそれは同じことでやはり数々の賞を受賞している有名人である。
だが、人付き合いが、正確には人ごみが苦手な修の顔を知る者は少ない。私たちシトリー家の者と親交が深い家の数人と言ったところだろう。だからだろう、私が間違えられたのは。
調律の途中でソーナが拐われたとシトリー家内が騒がしくなった。現場は僕の作業場。おそらくは僕に間違えられたのだろう。なんでいつも悪い方にしかならないのだろう。この目もそうだ。僕はただ普通の目が欲しかっただけなのに。
僕は、所謂転生者というやつで、しかも転生特典を神と名乗る何かから与えられて。僕は前世では生まれつき盲目だったが、それが逆に功を制したのか芸術に関する才能を開花させた。だが、どうしても自分の作品を見るということができなかった。そして神を名乗る何かは強く願った物を与えると言い、僕は目を望んだ。
だが僕の思いが強すぎてありとあらゆる魔眼をを宿してしまった。僕はそれを憎み、自ら再び目を閉ざした。目を閉ざすための特殊な布を貰う代わりに、僕は自分の前世での作品を作り、それを布をくれて保護してくれているセラフォルー・レヴィアタンに引き渡す生活を送っていた。だが、それも終わりだろう。これ以上、迷惑はかけられない。最後にソーナを助けてから再び、この命を絶とう。自室に戻り、今まで世話になった礼のメモと魔眼殺しの布を机の上に置き、13年ぶりにその目を開く。
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