ハーメルン
廃嫡皇子の帝国再建
旧き兵器

機密文書を盗みとった日から少し経った十五夜の夜。俺と師匠は。新雪が凍結した雪道を歩いていた。ロニーが担ぎ込まれてから実戦演習は休止しているし、こんな凍てつく夜に薬草なんてものも生えていない。なら何故雪道を歩いているのか。

「英霊召喚できる場所って、家じゃダメなのか?…寒い
「ただ召喚するだけならどこでも大丈夫です。しかし、帝都に乗り込むのであれば自分の身の回りは守らないといけない。より確実に召喚するならマナの濃度が多い場所でやるべきなんですよ。例えば、この山脈を巡る巨大な龍脈の直上とか。」

魔術の修行をするにあたっての少ない約束。その一つである英霊召喚のシステムを見せるといった約束。それは本来魔術師にとっては禁忌。しかし、俺はその本来の魔術師に当たらない。なんせ転生者だからね。というか、憑依転生そのものが掟破りだからね。許されなかったら、とっっくに天罰で殺されてるしなぁ。

 そう考えている間も、遂に解禁された異世界の技術に本気で考えている師匠。マジで根っからの魔術師なんだよなー。

「その龍脈についてだが、それは地下深くで流れる巨大な魔力流の事で良いんだな?」
「えぇ。ここでは自然エネルギー、龍間欠泉、地脈と呼ばれてて皆が立ち寄らない場所。魔術や儀式をするのに、なんで使おうとしないんだろうって」

 俺が不思議に思っていると、師匠がため息をつきながら、

「なら実際に確かめるか?ここから遠いから飛ぶぞ。あと、防火と気温制御を魔術で完璧に制御しておけ。下手したら死ぬからな。」

 と、いって颯爽と飛んでいく。…ん?防火、気温制御?まさか、その地脈って…

「…って!置いてかないで師匠ー!」

 俺は師匠を追って、空を飛んだ。

 自然界においてエネルギーというものは完成された効率を以て循環している。最初に土の無機物と太陽光によって有機物を生産する植物を筆頭にした生産者。そしてそれを食べてエネルギーをとる草食動物と、それを狙う肉食動物。そして、肉食動物の屍を、微生物達が無機物に分解する。そこからは植物からのループ。自然界という一つの生き物が作り出した最も効率に良いエネルギーの移動、伝達方法。人間も、心臓を使って再現している。このような有機物レベルでも可能ならば、星レベルになればもっと壮大になる。地球の場合、エネルギーの循環がマントルという形で対流を続けている。それが表面化するのがマグマであり、火山の噴火という現象である。魔術師的には、地上に露出している数少ない地脈。莫大な魔力リソースになり得る資源だ。何故、こんな話をしているのかというと、

「いやぁ…底が見えねぇ。魔術で護ってるけどこの規模の活火山は普通ビビる…」

師匠に連れられて、地脈が露出している部分。つまりは火山の火口付近で火山を眺めているためだ。リパル火山。ラボンが誇る最大最強の活火山であり、イルマ山脈の中でも随一の危険地帯。標高は4000メートルを越えていて富士山よりも高い。火山活動の苛烈さと、それによって蔓延する有毒物質。硫化水素や二酸化硫黄、一酸化炭素、等の見えない毒物であるが、それによって人を殺す。だからこの一帯は禁足地に指定されて、自殺志願者でない限りはここに立寄ることは無い。硫黄臭い。しかし、あたりを充満する魔力量は申し分無い。
というか、ファンタジーの世界なのか、中世の世界観でも魔力量はそこそこ多い。召喚した後の霊基の維持は可能だろう。聖杯はどうしたって?無くても、俺の憑依元の魔力量が膨大すぎるために、一騎くらいなら運用できるっぽい。大気中の魔力量も多いため、比較的難易度は低い。神代に近い英霊だと少しきつい程度。…この体、知れば知るほど、おおよそ人のものとは思えない。魔術、魔力においてはチート級。サーヴァント一騎分は稼働できる魔力量って、聖杯のバックアップ無しで小聖杯でも無理難題だろ…これも月の一族の血族?そんな馬鹿な。いくらなんでも神代から遠ざかった世界で、このスペックは頭おかしい。まあ、おかげで今戦力を呼べるのだから、この規格外に感謝しないといけない。

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