----司波家、地下室
達也は家の地下室を改造しCADの調整を行っていた。1人黙々と画面と向き合い、キーボードを叩く。
息を吐き、少し伸びをすると同居人の気配を感じ取った。
「深雪、どうしたんだい?ちょうど一段落したところだよ。入っておいで」
深雪は嬉しそうに達也に近寄る。
「それで、何か用かい?」
「CADの調整をお願いしたくて」
「この前もしたばかりだけどなにか不具合があったのか?」
「いえ!滅相もございません!お兄様の調整はいつも完璧です。ただ、その………」
「遠慮は要らないよ。言ってごらん」
「起動式の入れ替えをお願いしたくて」
「なんだ、そんなことか。なんの系統を追加したい?」
「拘束系を。……………駄目でしょうか?」
「いや、まあ、今後を考えるなら必要になるかも知れないね。じゃあ、先に測定を済ませようか」
その会話を機に達也は技術者の顔となった。
「お疲れ様、終わったよ」
達也に声をかけられ、深雪は寝台から起き上がる。
その際、達也からガウンを受け取り着込む。
彼は画面に向かい黙々と作業を開始した。
深雪はそれを見ながら達也に話し掛ける。
「あの、お兄様」
「ん、なんだい?」
彼は画面を見たまま返答する。
「尽夜さんは、私に傾く事はないのでしょうか?」
その言葉に達也は手を止め、深雪の方に向く。
深雪は今日の事を、これまでの自分の想いをポツリポツリと語りだす。
意外なことに深雪が達也にこの事を相談するのは初めてのことであった。
達也は彼女の想いには感情が無くなったとはいえ気が付いていた。深雪が尽夜を想う理由も分かる。くしくも自分を一般的な兄より慕っている理由とほぼ同じなのだからそれは当然の如く…。
それを踏まえて現状を思考する。
深雪の力になろうとする。彼女が幸せになるのが彼の幸せでもあるのだから。
そのことが彼が最後に残された感情“兄妹愛”なのである。
(尽夜………あいつは感情が俺と同じように無いわけではない。希薄なだけで喜怒哀楽の感情はちゃんと表に出てくる。先日の騒動でも怒りの雰囲気を纏っていた。しかし、どこかあいつの行動はなにかに強制されたというかなにかに従っているような感じがする。兄妹愛以外の感情がない俺だからこそわかる。あいつは俺と同じで根底にある行動原理は1つの要素のみだ。
だが、今はそれが何かは分からない。いや予想では絞れる。四葉家だと考えるのが妥当。
四葉家は俺を排除対象として見ている。尽夜は恐らく深雪よりも分家達の間では次期当主候補筆頭と考えられている。あいつが当主となれば四葉家の分家が今より更に俺の排斥に尽力するだろう。その時に俺はどうすればいいのか。深雪はどうしたら悲しまずにいられるのだろうか………)
「お兄様?」
考えに耽っていると深雪から心配そうな顔を向けられる。
「いや、なんでもない」
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