ハーメルン
その男、異世界知識皆無につき
6

「っ────!!!」

 深夜、館の一室にてユーリがベッドから弾かれたように飛び起きる。心臓がバクバクと早鐘を打ち、全身に鳥肌が立つ。

 ──()()()()()()()()()

 まるで暗闇の奥に光る双眸と目があったような、本能に語りかけてくる恐怖。再び寝ようにも、意識が覚醒してしまっていた。

「……くそ、なんだったんだ」

 額の汗を拭い、ベッドから降りる。ワイシャツを脱いで肌着のままだった格好の上に、無地のTシャツを着込んで部屋を出た。

「誰か起きてたら紅茶でも淹れてもらおう」

 駄目そうなら夜道を散歩でもするか、と続けるように呟いてそっと廊下に出るユーリは、階段に続く方向が妙に明るい事に気付く。

「……なん──うおっ!?」
「──まだ深夜ですよ、タチバナ様」

 顔を向けた先には、椅子に腰掛け、ランタンの明かりを頼りに本を読んでいるヴァレンティナの姿があった。黒く無機質な瞳が暗闇から自分を見る様は、現代人の感性が背筋に怖気を走らせる。

「なんでそんなところで──ああ、見張りか。そうだよな、俺でもそうするだろうし」

 小声でそう推理して、ユーリはヴァレンティナが傍らに本を積んでいるのを確認する。
 たった1日の付き合いが濃密だっただけで、ヴァレンティナとアイリーン、ユーリとシルヴィアは他人同士だ。万が一を考えて見張りを用意する事に関しては、別段責め立てる事でもない。

「まさかこんな時間から活動を始めるとは思えませんが、どうされましたか」
「ああいや、ちょっと目が覚めちゃって。もし良かったら紅茶でも淹れてもらえないかと。駄目そうなら外を散歩してから寝直します」
「そうでしたか……でしたら、わたくしがお淹れしましょう。どうぞこちらへ」
「……ありがとうございます」

 ヴァレンティナはランタンを手に取り、薄暗い廊下を歩いて行く。
 ユーリもまたそのあとを追いかけ、階段を降りて玄関ホールからキッチンへと移動した。

 明かりを点けたキッチンの、妙に現代社会のそれと似通ったコンロのような物の上に水を溜めた小鍋を乗せた。ヴァレンティナの魔力が火花となり、コンロもどきに火が灯り温められる。

「……シルヴィアが見たらなんというのか」

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