ハーメルン
その男、異世界知識皆無につき
4

「参ったなあ」
「参ったわねぇ」
「参りましたね」

 ユーリとアイリーン、ヴァレンティナが続けざまにそう言って、広げられた本を覗き込む。階段を降りた先の本の山を横目に、段の一つを椅子代わりに座っていたユーリが、ポツリと呟いた。

「──まさか()()()()()()()()()とはな」

 どのページを捲っても、どこにも何も書かれていない。埃を被っていた、白紙の本。

「お嬢様、ヴァレンティナさん。これを最後に見たのはいつ頃でした?」
「……えー、あー。見て分かると思うけど、私は読書は得意じゃないのよね」
「まあ……でしょうね」
「なんで納得したの?」
「わたくしは物置部屋に置いておけと言われて以降、ですね。もうずっと前の話です」

 それは誰に──と聞こうとして、アイリーンの父親だろうと察して口をつぐむ。
 改めて雑に端から端へとページを捲るユーリは、ふと、疑問を抱いて本をちょうど真ん中で割れるように開くと表面を撫でた。

「…………あれっ?」
「うん、どうした? ユーリ」
「ああいや……なんか、真ん中のページだけ触り心地が妙な気がしてさ」
「どれ──ああ、本当だ。紙というには……なんだ、ツルツルしているな」

 ──えー、ほんとに? と言ってアイリーンがページを指で撫で、そのツルツルとした感触に眉を潜める。積まれたそれをテーブル代わりにするという些か雑な扱いをされた本の上に置かれた紅茶を一口すすり、シルヴィアが小さく息を吐いた。

「古代エルフ語に、真ん中だけ質感が変なページ……あともう一つヒントでもあれば、取っ掛かりを掴めるのだが……」

 本を開いて床に座るユーリの隣で知識を総動員するシルヴィアだが──その様子を見ていたセラがおもむろに立ち上がり、その場の全員が飲んでいた紅茶のカップを触り始める。

「……なにをやってるんだ?」
「ん、ん、んー。これでいいか」
「…………セラ?」
「間違ってたら土下座してやる」
「は────」

 ──ばしゃっ、と、そのカップをひっくり返して中身をぶちまける。開かれたページにびちゃびちゃとかかり、ユーリが声を荒げた。

「だぁああああっ!? ちょっ、馬鹿っ……なにをしてるんだお前は!!」

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