リコエンド/利己的な愛情
ばんだ荘の一階の一室、高校時代から何年か過ぎたとある夜。高い酒瓶を抱えるようにしてちゃぶ台に突っ伏す狐のまぞく──リコが、楓の部屋で酔いながら愚痴を吐いていた。
「またマスターにフラれたぁ」
「この五年近くずっとそう言ってないか」
リコの抱える酒瓶を取り上げてちゃぶ台の端に置きながらそんな事を言う。
「最早告白から拒否までが流れ作業になってるじゃないか。いい加減折り合いをつけたらどうなんだ? そもそも俺の部屋で酒を呑むな」
「……だぁってぇ」
酔いから頬を紅潮させ、潤んだ目尻をとろりと緩める。五年前から想っている相手のそんな無防備な顔に、楓は一瞬たじろぐ。
「晩酌に付き合ってくれるの楓はんくらいなんやもん……楓はんも呑んだらええのに」
「……酒は呑めないって言っただろう」
「えぇ~ほんまにぃ?」
「俺が成人してすぐに一杯付き合ったらそのまま倒れたのを覚えてないのか?」
「……あぁ、そうやなぁ」
当時の事を思い返してくつくつと笑う。酒の入ったコップをちゃぶ台に置くと、リコはころりと畳の上に寝転んだ。
「……こら、リコ。そんな格好で寝るんじゃないよ、はしたないでしょ」
「やぁん、楓はんどこ見てるの?」
片膝を立てて寝転がり、チャイナドレスのスリットから生足がこぼれる。わざとらしい動きをして楓に流し目を向けると、呆れた様子でリコにパーカーを投げ渡す。
「それでも被ってなさい」
「……あら、楓はんの服」
肌掛けのように被せられたそれを手繰り寄せるリコを横目に、楓は廊下で電話を取る。
数回のコール音のあとに繋がり、携帯の奥から理知的な男の声が聞こえてきた。
『おや、楓くん。どうしたのかな』
「店長、うちにリコが来てるので引き取ってくれませんか」
『ああ……居ないと思ったら、相変わらず何かあるとそちらに赴いてるんだからねぇ』
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