桜エンド/それはあり得た物語
「なんだかリリスさんみたい」
「年代物の置物──ですが、魔力は感じませんね。今回もハズレでしょうか」
「みたいだねぇ、まあグシオンにでも売り付ければいいかな。ここには代わりに…………このたまさくらちゃん人形を置いていこうっ」
「いいんですかね……」
どん、と台座に置物の代わりに猫の人形を置く桜は楓に振り返ると、笑いかけて言った。
「よし。じゃ、帰ろっか」
「はい」
帰り道も罠に気を付けて、楓と桜は遺跡を出る。とある国の山奥にあった遺跡を攻略して帰路の飛行機に乗りながら、楓は横でアイマスクを着けて睡眠を取る桜を見た。
幼馴染の友人──吉田優子の父が、千代田桜その人にわけあって封印されてから10年。
魔族に覚醒した優子あらためシャミ子と、桜の妹・桃を経由して桜と知り合った楓は、自身の父の進言もあって、『眼』の修行も兼ねたアーティファクト探しを手伝うことにしていた。
「…………」
「んむ……ぁぅ」
呑気に寝ている桜の頬を指で突くと、そんな呻き声を出して眉をひそめるが、少ししてまた寝息を立てる。なんだかんだと長い付き合いになっていた桜とは行動を共にすることが多く、仕事や探検が終わって町に戻れば同棲もしていたが。
「なんとも言えないな」
桜との今のような関係が続いて以来、自分の中に友人以上の感情が湧いている自覚はあるが──これをただの仕事仲間と呼ぶには近すぎるし、愛と呼ぼうにも、違うのではという考えが過る。
視線を窓の外に戻して、縁に肘を置いて手に頬を乗せると、楓は景色を眺める。
本来の流れとは違い、早い段階で『眼』の力が覚醒した楓は、本来起きる筈だった事態の殆どが起きなかった事の理由を知らない。
千代田桃が暗くなった原因は無く、陽夏木ミカンの中のウガルルはとっくに受肉し、グシオンは死んでおらず、楓の両親は健在であり、町のまぞくは相も変わらず住人にスルーされている。
──これは、どこか遠くの世界線の、なにも起こらなかった物語。
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