ハーメルン
【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA
桜エンド/それはあり得た物語


「俺が好きでやってるだけだよ」
「…………へぇ~~~?」
「なんだい」
「いや、別に。楽しそうだなあって」
「嫌だったらここまでの長い付き合いにはならないと思うからねぇ…………ごめん電話来てるから先にばんだ荘に帰るね」
「あ、はい。お気をつけて~」

 はっはっは、と笑っていた楓は、何度目かの着信にため息をつきながら、シャミ子と桃から離れてようやく電話に出るのだった。

「…………はいもしもし。うん。わかったから、いい加減本人に直接言ってくれ」





 ──ばんだ荘一階の一室に帰宅した楓は、既に桜が帰ってきているのを、脱ぎ散らかされた靴と居間からの気配で察していた。

「ただいま戻りました……桜さん?」
「──あ~い、お帰り~楓く~~ん」
「…………なにやってるんですか」

 居間に顔を覗かせた楓は、テーブルに突っ伏しながら両手でパソコンのキーボードを叩いている桜の姿を見つけて、静かに困惑する。

「これねぇ、目と頭を休めながら作業できるから見た目に反して意外と楽なんだよっ」
「さいですか。あ、例の置物は幾らで売れたんですか? グシオン……今は偽名(おぐら)でしたっけ、あの人に売ったんでしょう?」
「うーん。あれねぇ、魔力は無いけど年代物ってことで、5万で売れたよ~」
「安い……」

 桜と父の古くからの知り合いである智慧のまぞく──小倉しおん(グシオン)は、今はシャミ子の魔力修行のために学生を騙って同級生を演じている。
 楓は、桜の『うわキッツ』という容赦の無い言葉に対して、『それはお互い様だよぉ……?』と返していたのを覚えていた。

「ああそうだ、そろそろあの()()()に連絡先教えてあげてくださいよ。毎日10回は電話が来るのめちゃくちゃ鬱陶しいんですけど」
「ごめん無理、なんか交換した日には死ぬほど電話かけてきそう」
「現にされてますからね」

 はぁ、と何度目かのため息をついて、楓はかぶりを振って切り換える。

「まあいいや。じゃあ、夕飯の準備をしますけど、お風呂に入りますか?」
「…………あとででいい」
「わかりました」

 眠気があるのか舌足らずの声で返答する桜を見て、楓は今までの経験から『これは寝るな』と判断して、献立を味噌汁からカレーに切り替えた。外国で手に入る謎の肉や謎の野菜をカレールーでまとめて煮込んでいた記憶を想起して、げんなりとした表情を浮かべながら。





 ──火を消して蓋をした楓が台所から戻ると、案の定桜は突っ伏した姿勢のまま眠っていた。

「……こりゃ食事は明日だな。俺の分だけよそってカレーもあのまま寝かせてしまおう」

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