桜エンド/それはあり得た物語
軽く肩を揺すっても無反応の桜を前にして、先に布団を出して広げてから、抱き上げた桜をそこに寝かせる。すると、桜が呻くように寝言を呟いているのを、楓の耳が拾い上げた。
「…………う──ん……あんこ、やくしょ……ほうこく書……結界の……点検も、しなきゃ……」
多忙に追われてスケジュールが詰まっているがゆえに、桜は気軽に休むことはできない。国外での活動を含めた全てが、桜の仕事である。
「……んにゃ……かえでくぅん……ありがとねぇ」
「──いつもお疲れ様、桜さん」
──この町を作り、暗黒役所を作り、魔法少女として各地に向かいつつ、シャミ子の父親を助けるための代替品探しに奔走する。ぶっ通しで働き詰めでいて、疲れないはずがないのだ。
「俺に出来ることはそう無いけど……最強の魔法少女が、こうも無防備になるということは──信用されているってことでいいんだよな」
髪留めやリボンをほどいて、櫛を通すようにそっと撫でながら楓は言う。
「…………ふむ。今がチャンス」
完全に寝入っているのを確認すると、楓は腕を伸ばして手探りでテーブルの携帯を手繰り寄せて、カメラを起動してパシャリと撮る。
シャッター音を聞いても起きない桜を尻目に、台所に向かいながら、楓は携帯を弄って、桜の寝顔写真付きのメールを送っていた。
「これでしばらくは、誰何も大人しくなるだろう。……さっさと飯食って寝よう」
それから楓は、桜の睡眠の邪魔にならないように、台所で皿に盛ったカレーを平らげる。
次はどの国のどこに向かうことになるのだろうかと、ぼんやりとそんな事を考えるのだった。
「──楓くん! 誰何に私の寝顔写真を送ってるってホルスさんから聞いたんだけど!!?」
「…………おっと」
後日、父の密告で色々とバレて怒られたのは、また別のお話。
[9]前 [1]後書き 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:5/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク