ハミ出せ!まちカドまぞく ~企業戦略編Ⅱ~
「さっき陽夏木さんとウガルルちゃんを迎えに行くって言ってたけど、そろそろ連絡来るんじゃない? 起こす方法は無いのぉ?」
トリュフチョコを容器に仕舞いながら小倉が言う。杏里の手でぐねぐねと歪む頬を見てなにやら羨ましそうな顔をする良子が、楓の携帯を見た。
「あ、メール届いてる」
「そっかー、じゃあ起こさないとなぁ。
……もうちょいこのままじゃ駄目?」
「駄目です。起こしてください」
ちえー。と言って、杏里は穏やかな寝息を立てる楓の顔を見下ろしながら大きな声を出す。
「……楓! 遅刻するぞー!」
「────っ、ぉっ!?」
杏里の声に反応した楓は勢いよく飛び起きる。呻き声を上げながら、ふらふらとした足取りでゆっくりと立ち上がった。
「……ぅ、ぉ……ぉお?」
「水飲みなよ。あとミカンからメール来てるから迎えに行かないと」
「…………んぉ……」
大丈夫なのか──という言葉が、杏里と小倉、良子の三人の間で一致した。
台所で水を一杯飲み干し、玄関近くのコートハンガーから厚手のコートを手に取り羽織る。
最後にマフラーを首に巻いて、携帯をポケットに入れた。
「……じゃあ、行ってくる」
「楓くん、ごめんねぇ。今度は普通のチョコを買ってくるからこれは私が食べるよ」
「怒ってないから気にするな」
申し訳なさそうにする小倉にそう言って、頬の近くの髪を一房手のひらに乗せて指で撫でる。そのまま頬も一撫でしてから、楓は外に出た。
楓を見送った小倉は、杏里に向き直って口を開く。
「楓くんって寝ててもあれで起きるの?」
「そうだね。『遅刻するぞ!』か、シャミ……じゃなくて『優子が倒れた!』で起きるよ。
でも後者をふざけて言うと本気で怒られるからやめた方がいい」
「それは誰でもそうなると思うよ……」
──吐息が白く、手先が冷える。
マフラーに口許を埋めて、楓は足早に駅まで歩いていた。駅前に近付くと、切符売り場の側にある柱に、二人の少女が寄り掛かっている。
「ミカン、ウガルル」
「──楓くん。少し遅刻よ?」
「ごめん」
自分に非のある楓が素直に謝り、ミカンは冗談よと笑って胸元を指で突いた。
「ほんの数分前に着いたばかりだもの。別に怒ってないわよ」
「食べ放題はどうだった」
「美味しかったわ。今度は三人で行きましょ」
「そうだな──ウガルル?」
談笑している二人の間にウガルルが割り込み、楓のコートの中に無言で潜り込む。
「寒いの嫌いダ」
「ああ、なるほど」
「早く帰ろウ」
「わかったよ」
コートから引っ張り出したウガルルと手を繋いで、ミカンと並んで帰路を歩く。そんな三人の視界に──白色が広がった。
「あら、雪なんて珍しい」
「……3月に雪とはな」
「んが……おウ?」
ひらひらと落ちてくる雪を見て、楓とミカンは笑みを浮かべる。ウガルルはすんすんと鼻を鳴らして、そんな鼻に一粒雪が落ちた。
「……冷たイ」
「ふふ、そうね」
ミカンはスカートに付いた雪を払ってそう言った。冬用の黒タイツで足を覆った姿は、年頃の少女らしい愛らしさがある。
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