ハーメルン
【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA
桃エンド/こうして桃色は暖かさを知った

『楓、あのさ──』

 それは一ヶ月前、眠れなくて夜空を見ようと楓が外に出たときの言葉。
 雲ひとつ無い、月明かりが照らす下で──桃はすがるように言った。

『──私のそばに、居てほしい』

 その言葉を告白と受け取るには、桃の感情はあまりにも独占的であった。
 ──しかし楓もまた、確かに今助けを求めている桃を放っておくことなど出来ない。
 真夜中の丑三つ時、楓は返事の代わりとばかりに──桃の体を静かに抱き寄せた。




 ──ばんだ荘の敷地を箒で払って掃除している楓は、一区切りして箒を仕舞うと左の手首を右手で揉んでいた。それを見かけたミカンが、心配した様子で近づいてくる。

「楓くん、どうかしたの?」
「ああいや、手首がちょっとね」
「えっ? ……うわっ、なにこれ手形……!?」

 楓の手首には細い指が絡み付いたような跡が出来ている。かなり強く握ったのか、くっきりとわかりやすく浮き出ていた。

「桃が俺の部屋を使うようになってから、ずっと俺の手首を握ったまま寝るようになってさ。夜中に起きても動けないんだよね」

「えぇ……」

 呆れた顔をして顔を片手で覆うミカンに、楓も小さくため息を漏らして快晴を仰ぐ。

「正直、楓くんが桃と付き合うことになったって報告してきたのは夢かなにかだと思ったわ。
 あのダウナー系でガサツで面倒くさがりの桃が、よりによって楓くんとだなんて……って」

「言い過ぎでは」
「楓くんはいいの? 桃って生活力低いのに」

 楓は知ってます……と諦めたような顔で言う。朝からフルマラソンをするのに早起きなのは構わないのだが、桃は料理が出来ないし、なんなら洗濯も出来ない。

 出来合いの料理ばかり食べているのに何故あの体型を維持できているのか。

「まあ、アレでも可愛いところはあるんだよ。寝顔とか、猫好きなところとか」

「ピンポイントね……」

 そうして話していると、二人の後ろの出入口から一人が入ってくる。
 振り返るとそこにいたのは──灰色のパーカーにジーンズとラフな格好をした桃だった。

「……二人で何話してるの」
「えっ? いやぁ、単なる……世間話?」
「ふーん」

 じとっとした目付きでミカンを見た桃は、ふて腐れた顔を隠そうともせず楓の腕を引いて部屋に入って行く。ミカンはそれを見て苦笑をこぼした。

「別に取ったりしないのに」

 千代田桜が居なくなってから何に対してもドライになりつつあった桃が、特定の何かに執着しているのを見るのは初めてだった。

「──そりゃ、好きな人が他の女と話してたら面白くないわよね~」

 そう呟いて、ミカンは一人で部屋に戻った。前よりも少女らしい顔をするようになった友人の顔を思い出して、口角を緩めながら。



 ──炊飯器に研いだ米を入れて数分、炊き上がるまでの時間を二人で過ごす楓と桃は、畳んだ布団に背中を預けてゆったりと座っていた。

「……ねえ」
「ん~?」
「これ、何が楽しいの?」

 伸ばした足の間に収まる桃の腹に手を置いて、楓は静かにまさぐるように動かす。

 楓の手が左の脇腹に近付くと、桃の体がビクリと震えて反応する。

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