桃エンドⅢ/猫耳甘えたガール
自室の居間に座ってテレビを見ている楓の背中にもたれ掛かる桃は、顎を肩に乗せて片手間に頭を撫でられていた。
たしっ、たしっ、と畳を叩く音が静かに響き、頭頂部の三角錐がピクピクと揺れる。部屋に遊びに来ていた杏里が、傍らでお茶を啜ってから一息ついて口を開く。
「──そろそろツッコミ入れていい?」
「どうぞ」
「なんでちよももに猫耳が生えてんの」
バリッ、とお茶請けの煎餅を齧りながら問う。杏里の視線の先にあったのは、楓に寄り掛かる桃の頭に生えた髪と同じ色の耳と、スカートの中から伸びている同色の尻尾だった。
楓に撫でられて機嫌がいい桃は、それこそ猫のように喉を鳴らせそうなくらいにリラックスしている。呆れた面持ちで、杏里が聞いた。
「いつからこうなったのさ」
「わからない。朝起きた時には既に桃はこうなってたし、昨日の夜までは普通だった」
後ろから抱きついて肩に顎を乗せ直す桃に無言でねだられ、撫でる動きを続ける。
眠そうにぼんやりとしている桃は、杏里の言葉に気だるげに返す。
「別に困ってないし、大丈夫でしょ」
「いやまあ、今日は日曜だからね。明日の学校はどうするの?」
「…………あー」
そういえば、と思い出す。
人間の方の耳辺りをくすぐるように指先で撫でながらそんな事を考えていると、桃の吐息が首に当たった。横目でちらりと見ると眠たそうにまぶたを細めている。
「桃、もしかして眠いの?」
「……んー、んー。ん」
「あぁ~、猫って夜行性だしね」
ふすふすと鼻を鳴らして楓の首筋を嗅ぐ桃は、落ち着いた様子でまぶたを閉じる。それから数分も経たずに穏やかな寝息が聞こえてきた。
「──ともあれ放っておくわけにもいかないし、小倉を呼んでまた調べてもらうか」
「小桃ちゃんの時みたいに欲求不満なだけなんじゃないの?」
「そうだとしても、なんで耳と尻尾が生えたのかの説明にはならないだろう」
そう言って連絡を取ろうと携帯に手を伸ばした瞬間、ふと玄関のチャイムが鳴った。
ビクッと体を震わせた楓と杏里は目を合わせ、動けない楓に代わって杏里が対応する。
ドアノブを捻って開けた先に居たのは、連絡しようとした件の相手──小倉しおんその人だった。まるで話を聞いていたかのような手際のよさに、杏里は頬をひくつかせて反射的に後ずさる。
「……今呼ぼうと思ったんだけど」
「私の知識を必要としていそうな気がしたんだよぉ。不思議だよねぇ~」
等と言いながら手元のバッグに小さいトランシーバーのようなモノとイヤホンを入れる様子を、杏里は見なかったことにした。誰だって命は惜しいのだから、仕方がないのだろう。
──あれよあれよといつものメンツが集まって、楓の膝に頭を乗せながら器用に体を丸めて眠っている桃を観察していた。
「うーん……異常なし、だねぇ。寧ろこれ以上ないってくらい健康かな~。
前回の小桃ちゃんみたいに、千代田さんが満足すれば数日で消えると思うよぉ」
「そうか。それなら、一先ずは安心だな」
猫の耳辺りの髪を撫でる楓が、眠りながら尻尾を揺らす桃を見下ろす。
その隣で桃の猫耳を見て目を輝かせているシャミ子が呟いた。
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